コラム

公開 2022.01.25

老朽化のリスクとは?賃貸不動産オーナーが知っておくべきこと

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賃貸物件が老朽化すると、空室の増加や賃料の低下などさまざまなリスクが発生します。

老朽化への対応方法や入居者立ち退きまでの流れ、対応方法を検討するにあたって考慮すべき事項などについてわかりやすく解説します。

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賃貸物件の老朽化のリスクが生じる目安は30年

建物は、年月の経過とともに老朽化していきます。

日頃からきちんと管理や修繕をすることで老朽化を多少遅らせることはできるものの、それでも老朽化のリスクを避けて通ることはできないでしょう。
特に、賃貸物件では老朽化によりさまざまなリスクが発生します。

賃貸物件の老朽化により何らかの問題が生じる年数の目安は、おおむね建築後30年程度といわれています。
30年を迎えた賃貸物件を保有している方は、そろそろ何らかの対策を検討する時期に差し掛かっているといえるでしょう。

老朽化により賃貸不動産に生じるリスク

賃貸物件が老朽化すると、どのようなリスクが生じるのでしょうか?
具体的に解説していきましょう。

入居者が決まらず空室が増えるリスク

居住する賃貸物件を探している入居者からすれば、築年数の浅いきれいな建物のほうが魅力的に映るでしょう。
特に、賃貸物件が多く存在するエリアでは、よほど何らかのメリットが提供できない限り、老朽化した物件が入居者に選ばれる可能性は低くなります。

空室が増えれば増えるほど建物全体の活気が落ち、物件の雰囲気が悪くなってしまうことも少なくありません。
そうなれば、さらに入居者が入らないという負のスパイラルに陥ってしまう可能性があります。

家賃が下落する

同等の家賃で入居できるとなれば、築年数の浅いきれいな物件が選択されやすいでしょう。
そのため、老朽化した物件でできるだけ空室を埋め入居者を確保したいとなれば、どうしても家賃を下げざるを得ません。

築年数が長くなれば長くなるほど、家賃を下げなければ空室が埋まらなくなっていく傾向にあります。

また、家賃を下げれば下げるほどさまざまな人が入居する可能性が高まり、物件全体のモラル低下や環境の悪化が起きかねない点もリスクの一つです。

修繕などの費用がかさむ

物件の築年数が長くなれば、設備の故障が起こりやすくなります。
特に水まわりなどは劣化が進みやすく、頻繁に修繕の必要が生じることでしょう。

そうなれば、修繕の費用や対応の手間がかさんでしまいます。

建物が倒壊する

1981年に建築基準法が改正され、建物の耐震基準のルールが変更さました。
一般的に、改正法の施行以前に建てられた建物は「旧耐震」、改正後のルールに則って建てられた建物は「新耐震」と呼ばれます。

旧耐震の基準で建てられた建物は、新耐震の基準で建てられた建物に比べ、大きな地震などが起きた際に持ちこたえられない可能性があり、倒壊の危険があります。
倒壊などにより入居者に被害が及んだ場合、所有者である物件オーナーが責任を問われる可能性もゼロではありません。

老朽化リスクを抱えた賃貸不動産への対応策

老朽化リスクを抱えた賃貸不動産への対応策

賃貸不動産オーナーとして、老朽化リスクを抱えた賃貸不動産へはどのような対応を取れば良いのでしょうか。
ここでは、老朽化物件への対応方法を4つ紹介します。

大規模修繕を行う

1つは、物件の大規模修繕を行うことです。
修繕工事の中でも、工事内容が大規模、工事費が高額、工事期間が長期間にわたるもの等を「大規模修繕」と呼びます。

たとえば、劣化した給排水などの設備をすべて交換したり、外壁補修をしたりといった修繕がこれに該当します。

大規模修繕をおこなうメリットは、次のとおりです。

●入居者が確保しやすくなる

 修繕により建物の美観が蘇ることで、入居者から選択されやすくなります

●賃料の下落を防ぎやすくなる

 建物の外観や設備が修繕されていることで、賃料を下げなくとも入居者が確保しやすくなります

●老朽化した外壁の落下などによる事故を防ぐことができる

 外壁を修繕することで、外壁タイルの落下などによる事故を防ぐことにつながります

●設備の修繕頻度が減る

 大規模修繕により設備の入れ替えなどをすることで、古い設備を頻繁に修繕しながら使い続けずに済みます

●資産価値が増加する

 外観がきれいで入居者が入っていれば、物件を売却する際の査定額が高くなります

一方で、デメリットは次のとおりです。

●多額の費用がかかる

 大規模修繕には多額の費用がかかります

●修繕の内容によっては入居者に一時的に立ち退いてもらう必要がある

 給排水設備の総入れ替えなど大掛かりな工事をする際には、工事期間中に入居者が住み続けることが難しくなる場合があります

大規模修繕をすることで物件の収益性や安全性が保たれるものの、やはり多額の費用を要する点が最大のデメリットです。
大規模修繕は、物件の取得時から積み立てをおこなうなど、計画的に実行すべきでしょう。

建物全体を建て替える

旧耐震基準で建てられた物件などあまりにも築年数が経過し老朽化が進んでいる物件の場合には、
大規模修繕よりも建物全体を建て替えた方が、費用対効果がよい可能性が高いでしょう。

物件全体を建て替えるメリットは、次のとおりです。

●入居者が確保しやすくなる

 新築の建物となることで、入居者から選択されやすくなります

●賃料の増加が期待できる

 新築物件であれば賃料を高く設定しても入居者が確保しやすいといえます

●老朽化した外壁の落下などによる事故を防ぐことができる

 新築のため、老朽化による事故は起きづらくなります

●設備の修繕頻度が減る

 新しい設備を入れることで、老朽化した設備と比較して修繕の頻度を減らすことができます

●資産価値が増加する

 築年数が浅ければ、物件を売約する際の査定額が高くなります

●地震などに強い建物とすることができる

最新の耐震技術を用いて建築することなどを選択できます

メリットは大規模修繕と似ていますが、建て替えにより新築物件とすることでこれらの効果がより大きく享受でき、さらに効果が長期に及ぶことが期待できます。

一方、デメリットは次のとおりです。

●多額の費用がかかる

 老朽化した建物を取り壊してイチから物件を新築するため、多額の費用がかかります

●建物が完成し入居者が入るまではその物件から収入を得ることができない

 旧物件の取り壊しから新物件が建ち入居者が入るまでの間は、その物件から収入を得ることができません

●入居者の立ち退きが必要となる

 旧物件に入居者がいれば、取り壊しの前に立ち退いてもらう必要があります

建物全体の建て替えは、老朽化した賃貸物件の問題を抜本的に解決する手段です。
しかし、一方で大規模修繕よりも多額の費用がかかる点などデメリットも小さくありません。

物件を売却する

老朽化した物件自体を売却して手放すことも、選択肢の1つです。

物件売却のメリットは、次のとおりです。

●キャッシュが手元に入るので安心感がある

 売却により対価として預貯金を手にすることができます

●物件を管理する手間や不安から解放される

 物件を手放すため、物件の管理に悩む必要がなくなります

●得たキャッシュで他の物件などへの投資を検討できる

 まとまったお金を手にすることができるため、他の物件を購入したり株式を購入したりといった他の投資が検討できます

●相続時に遺産を分けやすくなる

 遺産の大半が不動産では平等な分割が困難である一方、遺産の多くが預貯金であれば平等に分けやすくなります

一方、デメリットは次のとおりです。

●その物件からの継続的な収入が得られなくなる

 物件を手放せば、賃料収入は得られなくなります

●希望どおりに売却できるとは限らない

 老朽化が進んだ物件などでは、買い手がつかない可能性やかなり低い金額でなければ売却できない可能性があります

●相続税の節税効果が得られなくなる

 相続税対策の一環でアパート建築する場合もありますが、売却により節税効果が得られなくなります

物件の売却は、相続対策にも大きく影響する可能性があります。
後ほど解説するとおり、家族へも相談しながら慎重に検討すると良いでしょう。

リノベーションする

リノベーションとは、物件を単に修繕するのではなく、現代のライフスタイルに合った住まいに蘇らせるなど、新たな価値を生み出す物件につくり変えることです。

物件自体が古かったとしても、物件のコンセプトを明確にしてリノベーションをすることで、新たな層が入居者となる可能性があります。

リノベーションのメリットは次のとおりです。

●入居者が確保しやすくなる

 建物自体が古くともリノベーションをして物件のイメージが良くなることで、入居者から選択されやすくなります

●家賃の低下を防ぐことができる

 リノベーションをして物件のイメージが向上すれば、賃料を下げずとも入居者の確保がしやすくなります

●大規模修繕よりは費用が抑えられる場合がある

 たとえば部屋の内装のみをリノベーションする場合などには、大規模修繕と比べて費用が抑えられる場合があります

一方で、デメリットは次のとおりです。

●工事内容などによってはむしろコストがかさむ場合がある

 リノベーションでどのような工事をするのかは案件や施工する会社ごとに異なり、工事内容によっては費用がかさむ場合があります

●耐震などの抜本的な改善にはならない

 リノベーションでは建物の主要構造部までを補強しないことが多く、耐震などの抜本的な改善にはなりません

リノベ―ションはうまくいけばかなり古い物件であっても家賃の下落を防ぐことが可能となります。
そのためには、物件の持ち味を生かしたリノベーションをおこない、入居者に選ばれる物件とすることが必要です。

老朽化リスクのある賃貸物件を建て替える際の立退きの流れ

老朽化リスクのある賃貸物件を建て替える際の立退きの流れ

老朽化が進んでしまった賃貸物件の問題を抜本的に解決するためには、物件全体の建て替えが最善の選択となる場合もあるでしょう。
その場合には、現在の入居者に物件から立ち退いてもらわなければなりません。

なお、立退きの場面では入居者との間でトラブルとなることが少なくありません。
不用意な書面を出してしまったり、不用意な発言をしてしまったりした場合には、後にその点を指摘され物件オーナーに不利となってしまう可能性があります。
そのため、万全を期すためには入居者への説明段階から弁護士へ相談しておくことをおすすめします。

立ち退きまでの流れは、次のとおりです。

1.入居者によく説明する

はじめに、口頭や手紙などで入居者に事情をよく説明します。
入居者への説明はできるだけ早く、最低でも6ヶ月前までには伝えておきましょう。

予告から立退きまでの期間が長ければ長いほど、入居者が次の入居先を探しやすくなることに加えて心の準備もできるため、立退きに同意してもらいやすくなります。

2.必要に応じて引越し先の紹介をする

立退きを求める際には、必要性に応じて転居先の紹介やあっせんを申し出ると良いでしょう。
特に高齢の入居者などでは、その物件を退去したら次に入居できる物件が見つかるかどうかわからないといった不安から、立退きに応じない可能性があるためです。

転居先はできるだけ元の物件と近く、家賃や間取りが似た物件であれば納得を得やすいと考えられますが、家賃が上がる場合には立退料として家賃の増加分を一定期間支払うことなどで納得してもらえる場合もあります。

3.立退料の交渉をする

次に、立退料の交渉を行います。

立退料とは、家主からの退去を求める正当事由を補完する意味合いで支払う金銭です。
立退料には法令などで決まった金額があるわけでではありません。

退去のおおよその相場は家賃の6か月分程度とされることが多いようですが、迷惑料や退去にかかる引越し費用、転居先との家賃の差額など個々の状況を考慮して、個別に算定すべきです。

また、立退料は必ずしも支払う義務があるわけでもありません。
しかし、次の点からいえば支払ったほうが良いケースが少なくないといえます。

  • 立退料を支払うことで誠意が伝わり、退去に納得してもらいやすくなる
  • 入居者が立ち退かず裁判となったときに、相当な立退料の支払いがあることで裁判所から立ち退きが認められやすくなる

立ち退くことや立退料などの条件に合意したにもかかわらず、いざとなったら立退きを拒み居座ったり、
いったん合意をしたはずの立退料の値上げを要求されたりするような場合に備え、合意ができた段階で合意内容を書面に残し、捺印などをもらっておくと良いでしょう。

4.立退きをおこなう

事前の交渉で立退きについて合意ができたら、決まった日までに退去をしてもらいます。
無事に全世帯の退去が完了したら、建て替えのための取り壊しに着手することが可能となります。

老朽化リスクのある賃貸物件への対応方法検討のポイント

老朽化リスクのある賃貸物件への対応方法は、先ほど解説したとおり、いくつかのパターンが検討できます。
ここでは、どの方法を選択するのかの検討にあたり、考慮すべき項目を紹介します。

子など将来物件を引き継ぐ予定の人と相談する

老朽化リスクをはらむ物件への対応方法を検討する際には、その物件を将来引く継ぐ可能性が高い子などの意見も聞くと良いでしょう。
物件オーナーである親が良かれと思って賃貸物件を遺しても、子としてはその分をお金で遺して欲しいと望んでいる可能性もあるためです。

その理由としては、次のものが考えられます。

  • 借金を引き継ぐことに不安を感じる
  • 物件の管理や入居者募集などが煩わしい
  • 賃貸物件よりも金銭の方が他の相続人と分けやすく相続争いになりにくい
  • 相続税を納税するお金を確保したい

こうした理由から子は売却を望んでいる場合もあるため、大規模修繕や建替えなど大きな決断をしてしまう前に、子などとよく相談をすることをおすすめします。

相続税のシミュレーションをする

相続税対策の一環として賃貸物件を保有している場合もあるかと思います。
その場合には、老朽化物件への対応を検討する際に、その対応をした場合の相続税をシミュレーションしておくと良いでしょう。

多額の費用をかけて大規模修繕などをした結果、相続税を計算する上での物件の評価が上昇し、かつ現預金が減ってしまうため、相続税が支払えなくなる懸念があるためです。

遺言や民事信託などを行っていれば内容を見直す

賃貸物件オーナーの中には、遺言を作成したり民事信託を組成したりしている人が少なくないかと思います。
老朽化物件への対応によっては遺言や民事信託の内容を見直す必要が生じる場合がありますので、これも踏まえて対応方法を検討すると良いでしょう。

たとえば、遺言で賃貸物件は長男に、預貯金はすべて二男に相続させるとの内容で遺言書を作成していた場合、
物件を売却した際に得た金銭は長男が相続すべきか二男が相続すべきかなどで争いに発展する可能性があるためです。

まとめ

賃貸物件が老朽化すると、さまざまなリスクが発生します。
建築後30年を目安に、その後の対応方法をよく検討しておくと良いでしょう。

賃貸物件の老朽化への対応をご検討の際や入居者の立ち退きなどでお困りの際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。

Authense法律事務所の弁護士が、お役に立てること

賃貸物件の老朽化は、賃借人の安全や賃料収入の増減だけでなく、物件の相続にも関係してくる複雑な問題といえます。
また、建物の老朽化のため、賃借人との間で立退き交渉をする場合には、賃借人の同意を得ることができず、
なかなかうまくいかないケースも多々あるため、専門家である弁護士に依頼することによってスムーズに立ち退いてもらう必要があります。
そのため、賃貸物件の老朽化にお困りの方は、一度弁護士に相談することをお勧めします。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
第二東京弁護士会所属。創価大学法学部卒業。創価大学法科大学院修了。不動産会社やIT企業などの顧問弁護士として企業法務に携わるとともに、離婚や相続をはじめとする一般民事、刑事弁護など、様々な案件に取り組んでいる。また、かつてプロ選手を志した長年のサッカー経験からスポーツ法務にも強い意欲を有し、スポーツ法政策研究会に所属し研鑽を重ねる等、スポーツ法務における見識を広げている。
<メディア関係者の方>取材等に関するお問い合わせはこちら
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