コラム

公開 2022.09.06 更新 2023.04.06

事業承継とM&Aの違いは?事業承継型M&Aのメリット・デメリット

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事業承継というと、「子どもなどに事業を引き継ぐこと」をイメージする方が多いでしょう。
しかし、子どもなど親族への承継は、事業承継の一つの形に過ぎません。
事業承継は事業を承継させること全般を指し、M&Aも事業承継の一つに該当します。

では、M&Aを活用した「事業承継型M&A」のメリットやデメリットは、どのような点にあるのでしょうか?
また、具体的にどのように進めていけばよいのでしょうか?

今回は、事業承継型M&Aのメリット・デメリットや進め方、成功させるポイントなどについて、弁護士がくわしく解説します。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。元裁判官。企業法務、M&A、労働法、事業承継、倒産法(事業再生含む)等、企業に係わる幅広い分野を中心とした法律問題に取り組む。弁護士としてだけでなく、裁判官としてこれまで携わった数多くの案件実績や、中小企業のみならず、大企業や公的企業からの依頼を受けた経験と実績を活かし、企業組織の課題を解決する多面的かつ実践的なアドバイスを提供している。
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事業承継とM&Aの違い

M&Aは、数ある事業承継の手法の一つです。

事業承継というと、親族に事業を継がせることをイメージする方が多いかもしれません。
しかし、親族承継は事業承継の一つの形に過ぎず、M&Aなどさまざまな手法が存在します。

事業承継とM&Aの概要は、次のとおりです。

事業承継とは

事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐことの全般を指します。
事業承継にはさまざまな手法が存在し、代表的なものは次のとおりです。

  • 親族内承継:子どもなど親族に事業を承継すること
  • 社内承継:親族ではない従業員に事業を承継すること
  • 第三者承継:M&Aで第三者に事業を承継すること

事業承継の準備を始める際には、まずこれらのうち、どの方法で承継するのかを検討することとなるでしょう。

M&Aとは

M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略称であり、企業の合併や買収を意味します。

M&Aには次で紹介するようにさまざまな形がありますが、典型的なM&Aは、A社がB社を吸収合併して、B社が消滅する形態です。
この場合には、元々B社の株主であった者に、対価が交付されます。

事業承継を目的としたM&Aのことを、特に「事業承継型M&A」といいます。

M&Aの種類

M&Aには、さまざまな手法が存在します。
主なものは、次のとおりです。

吸収合併

複数の会社を、1つの会社に統合する手法を「合併」といいます。

中でも、A社とB社が合併し、A社のみが存続してB社が消滅するような手法が「吸収合併」です。
この場合には、B社の権利義務は、すべてA社に引き継がれます。

この場合におけるA社のことを「存続会社」、B社のことを「消滅会社」といいます。

新設合併

合併の対象となるすべての法人格を消滅させ、新たに設立する法人に権利義務を承継させる合併手法が「新設合併」です。
たとえば、A社とB社が合併するにあたり、新たにC社という法人を設立したうえでA社とB社の権利義務をC社に引き継ぐ場合などがこれに該当します。

グループ内の企業再編などの際に用いられることの多い手法であり、事業承継が目的である場合にはあまり活用されません。

会社分割

会社分割とは、事業の一部のみを切り分けて、他社に承継させる手法です。
たとえば、元々存在したB社をB-①社とB-②社とに分割し、B-②社のみをA社に承継させる場合などがこれに該当します。

会社分割には、既存の会社に分割した事業の一部を承継させる吸収分割と、新たに会社を設立する新設分割の二つがあります。

会社の一部の事業は引き続き手元に残し、他の事業のみを第三者に売却したい場合などに活用されます。

株式譲渡

株式譲渡とは、会社の形はそのままに、経営者が持っている株式を他社に売却する手法を指します。
会社をそのまま残しつつ、経営権のみが他社へ移ることとなります。

事業譲渡

事業譲渡とは、会社の形はそのまま残しつつ、会社が営む事業の一部または全部を他社に売却する手法を指します。
個々の資産や契約を個別で移転させることになるため、株式譲渡と比較して手間がかかりやすいといえるでしょう。

事業承継型M&Aのメリット

事業承継型M&Aを用いて事業承継をする主なメリットは、次のとおりです。

まとまった資金を得やすい

事業承継型M&Aによって事業承継をすることで、現経営者が株式の譲渡対価を得ることとなります。
そのため、現経営者がまとまった資金を得やすいといえるでしょう。

会社経営者は多くの資産を保有していることも多く、ここで得た資金を元手として相続対策などを検討することも可能です。

後継者がいなくても事業を継続できる

事業承継型M&Aは、会社や事業を第三者に引き継いでもらう手法です。
そのため、親族や社内に後継者としての適任者がいない場合であっても、事業を継続しやすくなります。

自社のブランドを残せる可能性がある

事業承継型M&Aを用いることで、経営者が代わっても、自社のブランドを残せる可能性があります。
なお、これが可能かどうかは、事業を承継した企業の考え方によって異なります。

そのため、自社ブランドの存続に主眼を置く場合には、最終契約の締結前に意見を擦り合わせ、契約内容に落とし込んでおくべきでしょう。

保証から解放されやすい

企業が金融機関から借り入れをする際には、経営者個人の保証が求められることが少なくありません。
そのため、経営者が会社の債務の保証人となっているケースは多いでしょう。

事業承継型M&Aによって他社に経営権を引き継ぐことで、経営者個人が保証から解放されることが可能となります。

事業承継型M&Aのデメリット

事業承継型M&Aには、デメリットも存在します。
主なデメリットと注意点は、次のとおりです。

希望どおりの買い手が見つかるとは限らない

事業承継型M&Aを成立させるためには、買い手となる相手方を見つけなければなりません。
会社の事業内容や財務内容が魅力的であれば買い手企業が見つかる可能性が高い一方で、会社に何らかの問題がある場合には買い手が見つからない可能性があるでしょう。

また、M&Aを急ぐ事情があると判断されれば、低廉な価格で買いたたかれてしまうリスクもあります。

交渉に時間がかかりやすい

事業承継型M&Aを成立させるためには、相手企業と交渉が成立することが大前提です。
しかし、会社を買うということは、相手企業にとっても一大事であることが多いでしょう。

そのため、交渉やデューデリジェンスに時間を要する可能性が高いといえます。
デューデリジェンスについては、後ほど解説します。

離職者が出る可能性がある

事業承継型M&Aを行って経営者が代わることで、離職者が出る可能性があります。
場合によっては、重要な業務を担っている人材が流出してしまうリスクもあるでしょう。

なお、早期にM&Aの噂が社内に流れれば、情報が錯綜して社内が混乱する可能性があります。
そのため、M&Aについては直前まで、社内にも情報を出さないことが一般的です。

社風が大きく変わる可能性がある

M&Aによって事業承継をすると、経営者が代わります。
これにより、これまでの社風が大きく変わってしまう可能性があるでしょう。

事業承継型M&Aの進め方

事業承継型M&Aは、どのように進めればよいのでしょうか?
基本の流れは、次のとおりです。

ステップ1:弁護士などの専門家へ相談する

事業承継型M&Aを検討している段階で、早期に弁護士などの専門家へ相談しましょう。
専門家へ相談することで、事業承継型M&Aが自社にとって本当に最適の手法であるかどうかなどについて、外部の視点からアドバイスを受けることが可能です。

また、M&Aによる事業承継を最終的なゴールに据えた場合には、現在行うべきことの洗い出しなどの支援も受けられるでしょう。
たとえば、遊休資産の売却などによる財務体質の健全化や社内規程の整備など、行うべき準備は盛りだくさんです。

ステップ2:相手先企業を選定する

事業承継型M&Aを成功させるには、買い手となる相手先企業を見つけなければなりません。
相手先企業を見つけ方としては、次の方法などが考えられます。

  • 取引先などのなかから自分で探す
  • M&A仲介会社を利用する
  • M&Aマッチングサイトを利用する
  • 金融機関から紹介を受ける
  • 専門家などから紹介を受ける

それぞれの方法に一長一短があり、適した方法は状況によって異なります。
そのため、事業を引き継いでもらう当てがない場合には、探し方も含めて専門家へ相談するとよいでしょう。

挙がった候補先の中から、次のステップへ進む企業を選定します。

ステップ3:秘密保持契約を締結しデューデリジェンスを行う

売り手にとってはもちろんのこと、相手先企業にとっても、会社を買うということは一大事です。
そのため、最終契約の前にデューデリジェンスを行い、あらかじめ会社の内情を調べるステップを踏むこととなります。

デューデリジェンスとは、相手企業の内情を調べ、買収にふさわしいかどうかや、適正な買収対価などを決める手続きです。
デューデリジェンスには、主に次のものが存在します。

  • 財務デューデリジェンス:資産、負債、キャッシュフローなど財務面を調査するものです
  • 税務デューデリジェンス:申告漏れの有無など税務面を調査するものです
  • 法務デューデリジェンス:契約や法令順守の状況などを調査し、法務リスクを洗い出すものです
  • 人事デューデリジェンス:労使関係を調査し、労使リスクを洗い出すものです
  • ビジネスデューデリジェンス:ビジネスモデルなどを調査し、会社の将来性をチェックするものです

デューデリジェンスを適正に行うためには、通常外部に見せないような資料などの開示が必要となります。
たとえば、決算書類はもちろん、決算書類の根拠資料や契約書、社内規程などです。

そのため、デューデリジェンスを行う前に秘密保持契約を締結します。

各種デューデリジェンスは、弁護士、公認会計士、社労士などの各種専門家が実施することが一般的ですので、これらの経験のある専門家に依頼するとよいでしょう。

ステップ4:最終契約を締結する

デューデリジェンスの結果も踏まえ、相手先と条件面などでの交渉がまとまったら、最終契約を締結します。

あえてお伝えするまでもなく、事業承継型M&Aの契約は非常に重要な契約です。
そのため、捺印前に必ず弁護士のリーガルチェックを受けましょう。

事業承継型M&Aを成功させるポイント

事業承継型M&Aを成功させるには、どのような点に注意すればよいのでしょうか?
成功の主なポイントは次のとおりです。

早期から専門家に相談する

事業承継型M&Aを自社のみで成功させることは容易ではありません。
多くの企業にとって、M&Aは日常的に行うものではなく、しかも事業承継を目的として行うM&Aであれば、現経営陣にとって初めてであることが大半であるためです。

事業承継型M&Aの最終契約までを締結した後で、何らかの問題点に気付いて後悔したとしても、後の祭りとなってしまうでしょう。
そのため、事業承継型M&Aなど事業承継の方法について検討している段階で、早期から専門家へ相談することをおすすめします。

会社の財務体質を健全にする

事業承継型M&Aに限らず、M&Aで自社を好条件で売却するためには、財務体質を健全にすることが不可欠です。

そもそも財務体質に大きな問題があるのであれば、買い手を見つけることさえ容易ではありません。
また、そのような状況で仮に買い手が見つかっても対価が低廉となる可能性が高いほか、欲しいのはその企業が持っている権利や特殊な装置などのみであり、M&A後に元の形を維持できない可能性が高くなるでしょう。

財務体質の健全化は、一朝一夕に行えるものではありません。
そのため、将来事業承継型M&Aを検討している場合には、財務体質の健全化へ向けて、早期からコツコツと取り組んでいくことが必要です。

各種規程や議事録などを適正に管理する

事業承継型M&Aをよい条件で成功させるには、会社を「きれいに」しておくことが必要です。
これには、先ほど挙げた財務体質の健全化はもちろん、各種規程や議事録の整備なども含まれます。

規程や議事録などを適正に整備している企業がある一方で、家族経営などの企業であれば、これらがきちんと整えられていないケースも少なくありません。
これらが整備されていなければ、後に思わぬトラブルが発生する可能性があるため、購入を躊躇されてしまう可能性があります。

そのため、事業承継型M&Aを検討している場合には、あらかじめ弁護士などの専門家へ相談の上、規程などの整備を進めておくとよいでしょう。

まとめ

事業承継には、M&Aなどさまざまな手法が存在します。
事業承継型M&Aを活用することで、社内に後継者としての適任者がいなくても事業を継続できるほか、創業者がまとまった資金を得やすくなるでしょう。

一方、必ずしも希望どおりの買い手が見つかるとは限らないなど、リスクやデメリットも存在します。

いずれの手法を用いるとしても、よい事業承継をするためには、数年から数十年単位での十分な時間が必要です。
事業承継が気にかかった段階で、できるだけ早期に専門家へ相談しておくことをおすすめします。

Authense法律事務所では、事業承継やM&Aのサポートに力を入れています。
また、グループ法人として社労士法人、税理士法人、コンサルティング会社などもありますので、事業承継やM&Aについて総合的なサービスを提供することが可能です。
事業承継についてお困りの際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。

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