コラム

公開 2022.07.19 更新 2023.01.30

利用規約の違反者に制裁を加えられる条件、制裁の内容や注意点を弁護士が解説

利用規約の違反者に制裁を加えられる条件、制裁の内容や注意点を弁護士が解説

利用規約違反をしたユーザーに対して、制裁を加えることはできるのでしょうか?

違反ユーザーへ制裁をするための条件や、制裁を行う際の注意点などについて弁護士がわかりやすく解説します。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。元裁判官。企業法務、M&A、労働法、事業承継、倒産法(事業再生含む)等、企業に係わる幅広い分野を中心とした法律問題に取り組む。弁護士としてだけでなく、裁判官としてこれまで携わった数多くの案件実績や、中小企業のみならず、大企業や公的企業からの依頼を受けた経験と実績を活かし、企業組織の課題を解決する多面的かつ実践的なアドバイスを提供している。
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利用規約の有効性

利用規約とは、一般的に、サービスの利用者がそのサービスを利用する際のルールを、サービスを提供する事業者が定めたものです。

利用者からのサービス利用申込に際して、適切な表示などをすることにより、利用規約はサービス提供者である事業者と利用者との契約の内容となります。

この利用規約が、改正民法で新設された「定型約款」に該当すれば、利用規約を契約内容とすることの合意の推定や、利用規約の変更についての合意の推定などの効果を受けることができます。
利用規約が定型約款と認められるための条件は、次のとおりです。

  • その取引が定型的な取引であること
    • サービス提供者が、その利用規約を契約の内容とする旨をあらかじめ相手方に表示していたこと
    • または
    • 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたこと

たとえば、ウェブ上で提供するサービスである場合には、次のような形をとることで、事業者側が用意した利用規約への同意を取ることが多いでしょう。

  • ユーザーがサービスの利用を申し込もうとする際に、利用規約を表示する
  • ユーザーが利用規約を確認し、かつ利用規約に同意する旨のチェックボックスにチェックを入れないと申し込み画面に進めないように設計する

このような手順を取ることにより、原則として利用規約はサービス提供者である事業者とユーザーとの間の有効な契約内容となります。

利用規約違反者に制裁ができる条件

サービス利用者が不適切な行為をした際に、サービス提供者である事業者はそのユーザーに制裁を課すことはできるのでしょうか?

実は、どのようなときであっても制裁が可能となるわけではありません。
事業者がユーザーに制裁をするための主な条件は、次のとおりです。

法律または利用規約に根拠があること

1つ目の条件は、そのユーザーの不適切な行為について、法律または利用規約に規定があることです。

たとえば、利用規約の中にユーザーの禁止行為として「他のユーザーへの誹謗中傷」と記載があるのであれば、実際に他のユーザーを誹謗中傷する書き込みをしたユーザーに制裁措置を取ることができる可能性があるでしょう。

法律または利用規約に沿った対応をすること

2つ目の条件は、法律や利用規約に、制裁内容についての規定があることです。

たとえば、利用規約に、規約違反の行為をしたユーザーはアカウント停止と退会措置をとる旨が定められていれば、原則としてそれに沿った対応が可能となります。

規約違反が不当条項ではないこと

たとえ利用規約に定めていたとしても、規約が不当条項であり無効とされた場合には、制裁措置をとることが困難となります。

たとえば、「本規約に違反をしたユーザーは、当社に対して罰金100万円を支払う」など定めていたとしても、違反の態様や、違反の程度が軽微である場合などには、不当条項として規約どおりの制裁が認められない可能性が高いでしょう。

どの程度の条項であれば不当条項となり得るかは、提供しているサービスの内容や違反の程度などによって個別的に判断され、一律の線引きは困難です。
そのため、利用規約を策定したり修正したりする際には、弁護士へ相談することをおすすめします。

違反者への制裁は何ができる?

利用規約違反者への制裁としては、どのようなものが挙げられるでしょうか?
主な制裁は、次の2パターンです。

強制退会など

最も一般的な制裁措置は、強制退会やアカウント停止です。

ウェブ上で不特定多数に提供されているサービスの場合、利用規約違反者に対して、アカウントの一時停止や、強制退会措置を取るとしているケースが多いでしょう。

なお、ユーザーが課金をする可能性があるウェブサービスの場合には、強制退会に伴って課金額の返還に応じるかどうかについても定めておいた方がよいでしょう。

また、月額の利用料などが発生するサービスの場合には、強制退会による利用料の返還の有無についても規定しておくと安心です。

ただし、仮に課金額を一切返還しない旨を定めた場合であっても、違反の態様や返還しない課金額などによっては、不当条項として無効となるおそれがあります。

損害賠償請求

利用規約違反により、事業者に損害が発生した場合には、違反ユーザーに対して損害賠償請求をすることが可能です。
請求できる金額は、実際に事業者に生じた損害となります。

なお、利用規約中に、たとえば「本規約に違反した場合には、金10万円を請求する」などと損害賠償額の予定を定めているケースも散見されますが、これは消費者契約法により制約が加えられる可能性が高いため注意が必要です。

消費者契約法によれば、このような損害賠償額の予定は、事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分は無効となります。

この条項は、解釈の余地がかなり広く、裁判例も様々なものがあり、また、裁判になった場合の主張・立証もかなり大変ですので、一概に幾らくらいということを明示することがかなり困難であるというのが現状です。

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不当条項規制の重要性

利用規約を作成する場合には、不当条項規制に注意しなければなりません。
なぜなら、いくら利用規約に定めていても、利用規約の条項が不当規約に該当すると判断されてしまえば、その条項は無効とされてしまうためです。

また、不当条項である利用規約に沿って制裁を課した場合には、むしろ事業者側が相手方から訴えられてしまう可能性があるでしょう。
不当条項に関する規制は、消費者契約法と民法にそれぞれ定められています。

消費者契約法による利用規約の規制

消費者契約法によれば、民法等の法律の規程が適用される場合と比較して、消費者の利益を一方的に害する次のものが、不当条項に該当します。

  • 消費者の権利を制限する条項
  • 消費者の義務を加重する条項

これらに該当する条項は、いくら利用規約で定めても無効となります。

定型約款による利用規約の規制

民法の規定によれば、定型取引の態様及び実情並びに取引上の社会通念に照らして、相手方の利益を一方的に害する次のものが、不当条項となり得ます。

  • 相手方の権利を制限する条項
  • 相手方の義務を加重する条項

これらに該当する条項は、いくら利用規約で定めてユーザーの同意を取ったところで、合意をしなかったものとみなされます。
つまり、これらの条項は無効であるということです。

禁止事項を定めるべき理由

利用規約には、提供するサービスの態様に応じて、ユーザーに禁止すべき事項を明確に定めておくべきでしょう。
なぜなら、禁止事項が定められていなければ、サービス提供者である事業者が行ってほしくない行動をユーザーが取ったとしても、退会や投稿削除などの措置をとることが難しくなるためです。

ユーザーの行為がいくらサービス提供者である事業者が望まない行為であったとしても、規約などの根拠なく強制退会などの措置を取ってしまえば、ユーザー側から損害賠償を請求されるリスクがあります。

また、禁止事項を定めないことで、ウェブサイトが荒れてしまう可能性もあります。

たとえば、異性との出会いを目的とするウェブサービスではないにもかかわらず、ユーザーが異性との出会いを求めるような投稿を繰り返した場合には、他のユーザーの健全な利用が妨げられてしまうでしょう。

そのような場合であっても、利用規約にこのような投稿が禁止事項であると定めていなければ、対処が困難となってしまいます。

利用規約違反者への制裁時に注意すること

ユーザーが利用規約違反をした際、制裁措置を取る場合には、次の点に注意しましょう。

ユーザーの損害賠償額を一方的に規定した条項は無効

先ほども解説したように、いくら利用規約に損害賠償予定額を定めたところで、その額が実際に事業者に生じた損害を超える場合には、その額をユーザーへ請求することはできません。

仮に損害賠償予定額を根拠に実際の損害より多額となる損害賠償を請求したとしても、相手方から反論される可能性が高いほか、場合によってはSNSで炎上してしまったり、他のユーザーが離反してしまったりするリスクがあるでしょう。

そのため、利用規約に定めた損害賠償の予定額を根拠に制裁を課そうとする際には、あらかじめ弁護士へ相談することをおすすめします。

消費者の利益を一方的に害する条項は無効

利用規約は自由に定めることができるわけではなく、先ほど解説をしたように消費者契約法や民法の制約を受け、相手方の利益を一方的に害する不当条項は無効となります。

仮に制裁の根拠となる条項が不当条項に該当していれば、制裁しようとしたユーザー側から制裁自体が無効であると主張されたり、損害賠償請求をされたりしてしまうリスクがあります。

そのため、ユーザーへ制裁措置を課そうとする際には、あらためて利用規約を見直し、根拠となる条項が消費者契約法などの不当条項に該当しないか確認する必要があるでしょう。

そもそも利用規約に同意を得ていたか

いくら事業者が利用規約を定めていても、利用規約を契約内容とすることに対するユーザーの同意が得られていないと判断されれば、その利用規約に沿って制裁を課すことはできません。

利用規約が契約内容とされるためには、冒頭で解説したように、申し込みに際してユーザーの同意が要件となるためです。

たとえば、単にウェブサイト上に利用規約を設置してユーザーがいつでも見られる状態になっていたというのみでは、利用規約への同意を得ているとはされない可能性があります。

利用規約違反をしたユーザーに制裁を課そうとする際には、その利用規約を契約内容とすることに同意を得られていたかどうか、あらためてウェブサイトの設計を確認しておくべきでしょう。

実際の裁判・判決事例

ユーザーの利用規約違反に関する実際に事例として、次のものが存在します。

事例1:ゲームアカウント停止措置

株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)が運営するゲームサイト「モバゲー」の利用者が、課金したばかりでサイト内に2万円が残っている状態で、突然利用停止となった事例です。※1
モバゲーの利用規約では、「他の会員に不当に迷惑をかけた」「会員として不適格」とDeNAが判断した場合、利用停止や会員資格の取り消しができると規定されていました。
また、「当社の判断で会員資格を取り消しても損害賠償には応じない」旨の記載がありました。

この免責条項が不当条項ではないかと、適格消費者団体が提訴しました。
これに対して、第一審のさいたま地方裁判所及び控訴審の東京高等裁判所は不当な免責条項に当たるとの判断を示したものです。

事例2:キャラクターを削除されたユーザーによる損害賠償請求

ゲーム運営会社側からネーミングが不適切であるとされ、一方的にキャラクターを削除されたユーザーによる損害賠償請求の事例があります。

この事例では、ユーザーがつけたキャラクターのネーミングが、利用規約に定める禁止事項に該当しており、制裁としてキャラクター自体を削除したことについて、債務不履行又は不法行為は成立しないと判断され、ユーザーによる損害賠償請求は認められませんでした。

ユーザーへの禁止事項と、それに対する制裁措置を利用規約で適切に定めておくことがいかに重要であるのかが、非常によくわかる事例です。

利用規約の修正手順

ここまで解説してきたように、利用規約に違反したユーザーへ制裁を課すためには、さまざまな注意点が存在します。
仮に、現状の利用規約が不十分であると感じた場合には、早期に利用規約を修正する必要があるでしょう。

利用規約の変更についてお困りの際には、弁護士へ相談することをおすすめします。

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まとめ

利用規約に違反したユーザーに適切な制裁を加えるためには、あらかじめ利用規約を作り込んでおくことが不可欠です。

利用規約の内容が不十分であれば、たとえ問題行動を取るユーザーがいたとしても、迅速に適正な対処をすることが困難となってしまうでしょう。

利用規約は、ユーザーとの契約内容となる非常に重要なものです。
いざというときに自社を守るため、利用規約を作成する際には、法律のプロである弁護士に相談することをおすすめします。

Authense法律事務所には、インターネット法務に詳しい弁護士が多数在籍しており、利用規約の作成を数多くサポートしております。
利用規約の作成や変更でお困りの際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。

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