コラム

公開 2020.11.10 更新 2023.01.30

弁護士から見たPMIとは?

弁護士から見たPMIとは?

ここ数年のうちで、中小企業において、M&Aを行う企業が多くなってきており、中小企業が後継者不在をM&Aで解決する例や新規事業など企業の成長を目指してM&Aを行う例、経営再建などを目指すM&Aなどが見られます。
このように、M&Aが多くなった理由としては、昨今の金融緩和政策や団塊世代の経営者の引退、昨今の市場においてスタートアップがブームとなっていることなどの影響が考えられます。
今後、M&Aを行うことを考えている会社の経営者としては、M&Aを行う際に重要となるポイントを予めしっかりと把握しておく必要があるでしょう。
そこで、今回は、M&Aを成功させるために最も重要であるといわれているPMIについて、法的な観点も踏まえて、説明していきたいと思います。

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1 PMIとは?

PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)とは、Post-Merger Integrationの略語で、合併・買収後の経営統合を意味します。
M&Aは、2つ以上の企業が結合することによるシナジー(相乗)効果を獲得するために実行される経営手法です。つまり、複数の企業が結合することにより、企業価値を単に「1+1=2」にするだけでなく、3にも4にもする(=シナジー効果)ことを期待して行われるものです。
もっとも、一定のシナジー効果を期待してM&Aを行ったところ、結果として、当初期待した以上のシナジー効果が実現しないという事例が実際には多いとされています。
それには様々な問題が考えられますが、結合後の新体制をめぐる主導権争いや企業文化の違い、具体的なシナジー効果の分析が十分になされていないことなどがよく挙げられます。
特に、企業はそれぞれに企業文化や風土があるため、文化が異なる2つ以上の企業が結合するとなれば、結合後の企業文化の調和が上手くいかず、十分なシナジー効果が実現しないことも多いのです。
そのため、M&Aを行う前の潜在的なシナジーを、M&Aを行った後の実現エナジーに転化させるために、シナジーを実現するにあたっての弊害をいかに減少させることができるかを検討する経済学的アプローチとして、PMIがあります。
M&Aの成否は、M&A後に期待される経営効果を実現できるかどうか、すなわちPMIの重要性を認識することにかかっているといえるほど、重要なものであります。

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2 M&A後の労務について

⑴先ほどの、大きな弊害事由の1つとなっている企業文化の違いという問題は、会社の経営陣の性格や組織構造、人事労務制度など様々な形で現れてきますが、以下では、その中核となる人事労務に関して、弁護士の視点から説明していきたいと思います。
会社の経営にあたり、人的資源は、企業価値の最も重要な要素のうちの一つであることから、M&Aを成功させるためにも、M&Aの初期の段階から、労務に関してしっかりと検討をすべきことになります。
この労務上の問題点の検討が不十分であったことを原因として、交渉過程で、または実際に結合した後に労務に関する問題が表面化し、M&Aが失敗に終わるケースもあります。
実際に、M&A後に初めて労務について検討するという例や、M&A後しばらくは労務面に着手しないという例も多いようですが、M&Aを行う際には、初期の段階から、労務に関しても十分に検討をする必要があります。

⑵M&A後に、労務に関してまず取り組まなければならないのは、就業規則や各種規程等の労働条件の整備です。
M&Aのうちどのような形態をとるかにもよりますが、M&A後に就業規則や賃金体系を踏まえた労働条件を買い手の会社に併せていくという作業が必要となることもあります。
一方で、先ほど述べた企業文化の違いという問題から、M&A後の労働条件や企業文化に納得しない労働者も一定数はいるかもしれません
そうした場合に、労働条件の変更がその労働者にとって不利益な変更であれば、後述のとおり、そのような労働条件の変更は無効とされてしまう可能性もあります。
そのため、M&Aを行う際には、それに伴い、労働者の労働条件が変更となり、場合によっては、不利益変更として新しい条件が無効になり得るということを正確に理解する必要があるかと思います。

なお、Authense法律事務所では、労働問題の取扱実績が豊富な弁護士による「労務に特化したIPO準備プラン」を提供しており、労務デューデリジェンスに耐えうる体制づくりをワンストップでサポートします。
また、企業の現状を調査し、問題点の洗い出し、その解決に向けた従業員との話し合い等、IPO審査で問題となり得る事項を審査前に解決するお手伝いもしております。
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3 関連する裁判例について

ここで、M&A後の人事労務に関連する比較的新しい重要な裁判例(平成28年2月19日第二小法廷判決〔山梨県民信用組合事件〕)を見ていきたいと思います。
同事件は、山梨県所在の信用組合であるAとYが合併契約を締結したところ、合併後のAの職員に関する退職金額が合併前と比べて大幅に減額されることになったため、Aの職員であったXらが、Yに対して、合併前の退職金支給基準に基づいて、退職金の支払いを求めたという事案です。

この事案では、支給基準を変更する際に、会社側からXらに対して、「同意をしてくれないと合併が実現できない」と説明し、実際に、Xらもこれに応じて同意書に署名押印をしていました。
しかしながら、最高裁は、「使用者が提示した労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても、労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば、……当該変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重にされるべきである。そうすると、就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については、……当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべき」であると判示して、労働者側の主張を認めました(その後、差戻審はXらの訴えの大部分を認め、判決が確定しております。)。

この裁判例からも分かる通り、経営者主導でM&Aを進めるにしても、M&A後に労働者側から労働条件の不利益変更に該当するとして請求がなされてしまうことがあるため、こうした事態に陥らないような形でM&Aを進める必要があります。
また、労働条件の不利益変更にあたるとはいえないまでも、M&Aにより、労働条件や労働環境の変化、例えば、人事評価制度の仕組みが異なるとか社員同士の意識の違い、有給休暇の取得率の低下などがあると、労働者の立場としては、心情的に労働に対するモチベーションが維持できなくなるような事態が発生する可能性もあり得ます。
そうなってしまっては、M&A後に優秀な労働者が離れていってしまったりするなどして、結果としてM&Aが失敗に終わってしまう可能性もあると思います。
そのため、そうした事態を回避するために、M&Aの交渉過程段階から、しっかりと結合後の人事労務に関しても検討する必要があります。

4 まとめ

以上のとおり、PMIの概要及びそれに関連する法律的な問題を説明してきましたが、M&Aを行う際には、PMIの重要性を意識する必要があると思います。
しかし、一方で、PMIに注力しすぎれば、M&Aの交渉等が円滑に進まず、タイミングを逸してしまうこともあるでしょう。
M&Aを「成功」させるためには、専門家にご相談することをお勧めします。

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