コラム

公開 2022.11.01 更新 2024.02.19

パワハラが労災認定される基準と会社のデメリットは?認定事例と会社が取るべき対応

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パワハラは、労災として認定される場合があります。
では、パワハラが労災として認定される基準はどのようなものなのでしょうか?

今回は、パワハラで受けた精神的苦痛からうつ病などを発症した場合における労災認定の基準や、企業の対応法などについてくわしく解説します。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
第二東京弁護士会所属。大阪市立大学法学部卒業、大阪市立大学法科大学院法曹養成専攻修了(法務博士)。企業法務に注力し、スタートアップや新規事業の立ち上げにおいて法律上何が問題となりうるかの検証・法的アドバイスの提供など、企業のサポートに精力的に取り組む。また、労働問題(使用者側)も取り扱うほか、不動産法務を軸とした相続案件などにも強い意欲を有する。
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パワハラ防止法によるパワハラの定義

ある言動がパワハラに該当するかどうかは、その場面のみを切り取って判断できるものではありません。
「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(通称「パワハラ防止法」)によれば、次の3つの要件をすべて満たす場合にパワハラに該当すると定義されています。※1

優越的な関係を背景とした言動であること

パワハラの定義の1つ目は、優越的な関係を背景とした言動であることです。

この典型例は、上司や先輩から部下や後輩に対する言動でしょう。
しかし、部下や同僚からの言動であっても、パワハラに該当する場合があります。

たとえば、業務の遂行にあたって必要な知識や経験を有する同僚や部下からの行為である場合や、集団の行為である場合で抵抗や拒絶をすることが困難な場合などには、同僚や部下からの言動であってもパワハラに該当する可能性があります。

業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること

パワハラの定義の2つ目は、社会通念に照らし、その言動が明らかに当該事業主の業務上必要性のないものであることや、その態様が相当でないものであることです。

この判断にあたっては、次のようなさまざまな要素を総合的に考慮することが適当であるとされています。

  • その言動の目的
  • その言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度など、その言動が行われた経緯や状況
  • 業種・業態
  • 業務の内容・性質
  • その言動の態様・頻度・継続性
  • 労働者の属性(経験年数、年齢、障害の有無等)や心身の状況(精神的又は身体的な状況や疾患の有無等)
  • 行為者の関係性

なお、その言動を受けた労働者側に何らかの問題行動があるからといって、パワハラへの該当性が否定されるわけではありません。
たとえ言動の受け手である労働者側に問題があったとしても、人格否定など、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動がなされれば、パワハラに該当する可能性があります。

労働者の就業環境が害されるものであること

パワハラの定義の3つ目は、その言動によって労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられて就業環境が不快なものとなったために、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、その労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じたことです。

これに該当するかどうかは個々の主観によるのではなく、「平均的な労働者の感じ方」で判断することが適当であるとされています。

パワハラが労災認定される基準

パワハラが労災認定されるかどうかの基準として、次の3つの要件が定められています。※2
これらをすべて満たす場合には、労災認定がされる可能性が高いでしょう。

それぞれの要件は、次のとおりです。

要件1:被害者が認定基準の対象となる精神障害を発症していること

パワハラが労災認定されるための1つ目の要件は、被害者が認定基準の対象となる精神障害を発症していることです。

認定基準の対象となる精神障害の代表例はうつ病や急性ストレス反応などで、アルコールや薬物による障害、認知症などは認定基準の対象からは除外されています。

要件2:発症前おおむね6か月間に業務による強い心理的負荷が認められること

2つ目の要件は、発症前おおむね6か月間に、業務による強い心理的負荷が認められることです。

この判定においては「業務による心理的負荷評価表」が設けられており、期間内に精神的な苦痛を感じる「特別な出来事」に該当する出来事があったかどうかや、長時間労働の度合いなどを当てはめて、心理的負荷の強度の評価を行うものとされています。
心理的負荷の強度が「強」と評価された場合、2つ目の要件を満たし、「弱」や「中」と評価された場合は労災認定されません。

要件3:業務以外の心理的負荷によって発病したものではないこと

3つ目の要件は、業務以外の心理的負荷によって発病したものではないことです。

厚生労働省により「業務以外の心理的負荷評価表」が設けられており、たとえば「離婚又は夫婦が別居した」や「配偶者や子供、親又は兄弟が死亡した」など、各項目にあてはまる出来事があったかどうかがチェックされ、業務以外の心理的負荷の強度が評価されます。
また、精神障害の既往歴やアルコール依存状況なども、精神障害の発病の原因であるか判断されます。

ただし、業務以外の心理的負荷があるからといって、精神障害の発症に業務起因性がないと直ちに判断されるわけではありません。

業務による心理的負荷の強度などと併せて総合的に判断された結果、その精神障害の発症が労災であるかどうかが判断されます。

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パワハラが原因で労災が認められた裁判事例

パワハラが原因で労災が認められた裁判事例は少なくありません。
ここでは、厚生労働省が運営する「あかるい職場応援団」に掲載されている事例から、3つご紹介します。

上司による叱責も考慮して業務起因性が認められた事例

Aが出血性脳梗塞を発症したことは勤務先企業での業務に起因するものであるとして、Aの妻が管轄の労基署長に対して、労災保険給付の不支給処分の取り消しを求めた事例です。※3

Aは、発症前の1か月間に徹夜作業も含む80時間近い残業をしており、これ以前も長時間の残業が常態化していました。
これに加え、上司から起立したままの状態で2時間を超えた叱責を受けており、肉体的疲労に加え心理的な負担も有していたようです。

この事例では、一審では業務起因性が否定されたものの、二審では業務起因性が認められ、労災保険の支給が決定しています。

上司の言動により精神障害を発症し、自殺に及んだと判断された事例

Aが精神障害を発症し自殺に至ったことは、上司によるパワハラが原因であり、業務起因性があるとして、Aの妻が労災保険給付の不支給処分の取り消しを求めて訴訟を提起した事例です。※4

Aは上司から「存在が目障りだ、居るだけでみんなが迷惑している。おまえのカミさんも気がしれん、お願いだから消えてくれ」「お前は会社を食いものにしている、給料泥棒」などとしばしば厳しい言葉を浴びせられていました。

そうした中で、徐々に身体に変調が生じ、営業上でのトラブルも生じるようになった後、自殺をしています。

また、Aの遺書には、上司の言動が原因で自殺をする旨が記載されていたほか、周囲に上司との関係が困難である旨を打ち明けていたようです。

この事例では、Aの精神障害の発症と自殺について業務起因性が認められ、労災保険給付の不支給処分が取り消されています。

部下からの嫌がらせによる労災認定事例

Aが自殺を図ったことは業務による心理的負荷により精神障害を発病したことが原因であるとして、Aの遺族が労災保険の遺族補償給付などの不支給決定処分の取り消しを求めて提訴した事例です。※5

Aからの処遇に不満を持った部下は、Aが売上の着服や窃盗、セクハラを行っているなどのビラを作成し、親会社の労働組合に持ち込みました。
調査の結果着服などの事実は認められなかったものの、勤務先企業はAに始末書を提出させ、異動をさせています。

その後、部下は再度親会社に対してAが不正を働いているとのビラを持ち込み、勤務先企業が改めて調査をした結果、一部の不正(勤務先で酒を飲んだこと)のみをAが認めたことから、Aに対し別事業への異動と研修を命じました。
その後、Aは配転先店舗に出勤しないまま所在不明となり、自殺しています。

この事例では、精神障害の発症や自殺と業務との間に相当因果関係の存在を肯定することができるとして、遺族の請求が認められました。

パワハラが労災認定された場合における会社側のデメリット

社内で発生したパワハラが労災であると認定された場合、会社にとって次のリスクが生じます。
しかし、だからといって労災隠しをすることは行うべきではありません。
このようなリスクを知ったうえで事前に予防策を講じるべきであり、既に起きてしまったことに対しては、法令に則って適切な対処を行いましょう。

被害者である従業員から慰謝料請求をされる可能性がある

労災認定がされるかどうかと慰謝料請求が認められるかどうかについて、直接の関係があるわけではありません。

しかし、労災認定がされるということは、業務と発病や死亡との因果関係が認められたということです。
そのため、労災認定がされた事案においては、被害者である従業員や遺族などから、慰謝料請求がされる可能性が高いでしょう。

被害者である従業員の解雇が制限される

労働基準法の規定により、業務に関連するけがや病気の療養のために休業している従業員について、休業期間中とその後30日間の解雇が、原則として禁止されています。

また、これに違反した場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則の対象となります。

労働保険料が値上がりする可能性がある

パワハラに限ったことではありませんが、企業において労災事故が発生すると、労働保険料が値上がりする可能性があります。

なぜなら、労災保険制度では「メリット制」を採用しており、それぞれの会社の労災発生率に応じて労災保険率又は労災保険料額を、プラス・マイナス最大40%の範囲で増減させる制度となっているためです。※6

ただし、労災保険の割合となる労災保険率は、事業の種類ごとに個別に定められるため、自社の労災保険率を確認したい場合には、顧問先の社会保険労務士などへ問い合わせるとよいでしょう。

報道などでイメージが低下するおそれがある

企業の規模が大きい場合など社会的な影響がある企業である場合には、報道されてしまったりSNSで拡散されてしまったりする場合があります。
これにより企業イメージが低下して、採用活動や売上などに影響が生じる可能性があるでしょう。

パワハラについて労災申請された場合に会社側が取るべき対応

パワハラが原因で労災申請がされた場合、企業はどのような対応を取るべきなのでしょうか?
主な対応方法は、次のとおりです。

早期に弁護士へ相談する

社内で発生したパワハラによる傷病などについて労災申請がされた場合には、労働問題にくわしい弁護士へできるだけ早期に相談することをおすすめします。

労災申請された場合には、少なくとも従業員が精神疾患を発症している可能性が高く、非常に深刻な事態であるためです。
初動を誤ってしまうと、より大きな問題へと発展してしまう可能性があるでしょう。

事実関係の調査を行う

パワハラについて労災申請がなされた場合には、会社として事実関係を正しく把握することが重要です。
弁護士とともに関係者へヒアリングをするなどして、事実関係の調査を急ぎましょう。

申請内容が事実なら事業主証明を行う

労働者が労災給付を申請するために必要となる労災保険給付請求書には、事業主の証明欄が設けられており、事業主が、負傷または発病の時刻、年月日、災害の原因等について給付請求書の記載どおりであることを証明します。
これを「事業主証明」といいます。

事業主は、保険給付を受けるべき労働者から事業主証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければなりません。
しかし、この証明は必ずしなければならないものではなく、事実関係に異論がない場合を除いては、事業主証明を拒否することも検討する必要があるでしょう。

労働者の精神疾患発症が労災であることに対して会社として疑義がある場合には、安易に証明をするべきではありません。
事業主証明をする前に、弁護士へ相談することをおすすめします。

なお、労働者が事業主証明を得られない場合であっても、労災請求は可能であるため、事業主が事業主証明を拒否したからといって、労災認定がされないというわけではありません。

申請内容に疑義があれば意見申出制度を利用する

意見申出制度とは、労働者からの労災申請に対して、会社として意見を述べる制度です。
先ほど解説した事業主証明を拒否する場合には、すみやかに意見の申出を行うようにしましょう。

申出をした意見については、その後訴訟などへ発展した際の証拠として用いられる可能性があります。
そのため、意見の申出については、弁護士に書面を作成してもらうとよいでしょう。

まとめ

社内でパワハラが発生すると、被害者である従業員から労災申請される場合があります。
実際に、パワハラが原因で労災認定がされたケースは少なくありません。

パワハラを原因として従業員から労災申請がなされた場合、会社としては慎重な対応が求められますので、早期に弁護士へ相談しましょう。

Authense法律事務所には、パワハラなど労使問題にくわしい弁護士が多数在籍しております。
パワハラでの労災申請でお困りの際や、パワハラの予防策を講じたい場合などには、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。

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