NFTと暗号資産が、付加価値税詐欺(脱税)の疑いで押収される事案がイギリスで発生しました。
このニュースをわかりやすく紹介するとともに、NFTや暗号資産に対する課税における注意点について詳しく解説します。
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NFTが詐欺事件調査の一環で押収されたイギリスの事例
イギリスで、詐欺事件に関わる調査の一環として、NFTおよび5,000ポンド(約78万円)相当の暗号資産が歳入関税庁(HMRC)に押収される事案が発生しました。※1
はじめに、この事例について解説しましょう。
NFTとは
NFTは、「Non Fungible Token(非代替性トークン)」の略称です。
ビットコイン(BTC)などの暗号資産もトークンの一種ではあるものの、個別の暗号資産に色や識別符号など個性があるわけではありません。
ビットコイン自体の個性に着目されず、同じ1BTCであればどの1BTCであっても同じ価値を持ちます。
現実の通貨で、1万円札でさえあれば他の1万円札と交換をしても、価値がいずれも同じであることから1万円札自体の個性に着目しなくとも取引に支障がないことと同じであると考えるとわかりやすいでしょう。
このような性質から、暗号資産などはNFT(非代替性トークン)に対し、「代替性トークン」に区分されます。
一方、NFTはインターネット上に存在するそのトークンの唯一無二性を重視するものです。
たとえば、デジタル上にのみ存在するデジタルアートをせっかく購入したとしても、簡単にコピーができてしまいます。
しかも、現実世界のアート作品であればオリジナルとコピーとの区別は比較的判別しやすいことに対し、デジタル作品のコピーでは品質の劣化も起きず、コピーが容易であることもあり、オリジナル作品とコピー品との区別がつきません。
そのため、従来はデジタルコピーが無数に存在すれば、誰が本来のデジタルアートの購入者であるのかなどの証明は難しく、デジタルアート作品に高い価値が付くことはほとんどありませんでした。
このような問題を解決するのが、ブロックチェーン技術を応用させたNFTです。
NFT技術を活用することにより、購入したデジタルアート作品に唯一無二性のデジタル刻印がなされます。
仮にデジタルアート作品自体がコピーされても、刻印までがコピーされるわけではないため、正式に購入した人は正式な購入者であることの証明が可能となります。
このような特性を利用したNFTを活用したアート作品や新たなビジネス展開の手法などが次々と生まれています。
ただし、昨今「NFTである」という点のみで価値が急騰するケースもあり、暗号資産と同様に投機商品としての色を帯びている傾向にあるといえるでしょう。
この事例でNFTが押収された理由
イギリスの事例でNFTが押収された理由は、付加価値税(VAT)詐欺(脱税)の疑いによるものでした。
記事によれば、このNFTに関して140万ポンド(約2.2億円)以上の付加価値税(VAT)詐欺の疑いがかけられているようです。
NFTには何億もの価値が付くこともあり、自己売買を繰り返すことによる価格つり上げや、盗作品などを使った詐欺案件も急増しています。
この件に関して、HMRCの経済犯罪担当副局長であるニック・シャープ氏は、「押収事例が暗号資産を脱税に利用すれば金を隠し通せると思っている人たちへの警告になる」と述べているとのことです。
NFTや暗号資産に税金はかかる?
先ほど紹介したのはイギリスでの事例ですが、NFTや暗号資産にかかる税金は、日本でも無関係ではありません。
NFTや暗号資産には、税金がかかる場面が多く存在します。
主に次のような場面では税金がかかりますので、該当する人は忘れずに申告するようにしましょう。
NFTや暗号資産を売却した場合
NFTや暗号資産を売却した場合には、その儲けに対して税金がかかります。
この税金は、原則として自ら確定申告を行い、納税しなければなりません。
NFTや暗号資産の売却益が所得税のうち、「事業所得」「譲渡所得」「雑所得」のいずれに該当するのかは状況によって異なります。
申告先の税務署もしくは税理士へご相談ください。
NFTや暗号資産を別の暗号資産に変えた場合
NFTや暗号資産を別のNFTと交換したり別の暗号資産に変えたりした場合には、原則としてNFTや暗号資産を売却した場合と同様に所得税の対象となります。
現実の通貨に変えたときにだけ税金がかかるわけではないことには注意しましょう。
暗号資産を物品などの購入のために使用した場合
暗号資産を使用して物品やサービスなどを購入した場合にも、NFTや暗号資産を売却した場合と同様に原則として所得税の対象となります。
暗号資産を使用した時点で、暗号資産の価値が確定したと考えられるためです。
NFTや暗号資産に対する税金の処理は適切に
NFTや暗号資産を脱税したとしても、課税当局に隠し通せるのではないかなどと安易に考えることは決してすべきではありません。脱税が発覚した場合には重いペナルティの対象となります。
取引所内での取引であれば、課税当局が取引履歴を確認することで簡単に把握することが可能です。
また、取引所を経由していなかったとしても、暗号資産はそもそもその性質上取引履歴が残るものであるため、これを調べることで簡単に把握されるでしょう。
仮にこの段階で把握されずに課税されなかったとしても、安心などできません。
暗号資産やNFTで儲けたお金で不動産を購入するなど現実世界で利用すれば、その資金の出所に課税当局が目を光らせる可能性は当然高いでしょう。
課税当局が把握している収入では到底購入できないような資産を保有していれば、脱税は一目瞭然です。
暗号資産やNFTを利用した脱税を考えるなど、絶対にやめましょう。
NFTや暗号資産を脱税した場合のペナルティとは
脱税をした場合に課されるペナルティは、非常に重いです。
このような重いリスクを背負わないためにも、NFTや暗号資産で利益を得た場合には、必ず期限までにきちんと申告と納税を行うようにしましょう。そして、利益を確定した際には、事前に納税分の金銭を残しておくなど、申告と納税を見据えた対応をしておくことが重要です。
脱税に対する主なペナルティは、次のとおりです。
無申告加算税や過少申告加算税、重加算税
無申告加算税とは、本来申告が必要であるにもかかわらず申告をしなかった場合、本来支払うべきであった税金に上乗せして課される税金です。※2
税務調査で無申告が指摘された場合の無申告加算税は、原則として、本来支払うべきであった税金の15%(50万円を超える部分に対しては、20%)の割合を乗じて計算した金額となっています。
また、これと似たものに過少申告加算税があります。
過少申告加算税は、期限内に申告はしたものの実際よりも少なく申告をした場合に、本来支払うべきであった税金に上乗せして課される税金です。
税務調査で過少申告が指摘された場合の過少申告加算税は、原則として、追加で支払うべき税金の10%(新たに納める税金が当初の申告納税額と50万円とのいずれか多い金額を超えている場合、その超えている部分については15%)となっています。
そして、無申告や過少申告が事実の仮装や隠蔽によるものであると判断された場合に、無申告加算税や過少申告加算税に代えて課されるものが重加算税です。
重加算税は、原則として過少申告の場合は35%、無申告の場合には40%と非常に重いものとなっています。
当然ながら、これらに加えて本来支払うべきであった分の税金も支払わなければなりません。
延滞税
申告期限後に追加で支払うべき税額が生じた場合には、過少申告加算税などに加えて延滞税を支払う必要があります。延滞税は、契約取引で言えば、いわば遅延利息に相当するものです。※3
令和3年1月1日以後の期間に対応する延滞税の割合は、それぞれ次のとおりです。
- 納期限までの期間及び納期限の翌日から2ヶ月を経過する日までの期間相当分:年「7.3%」と「延滞税特例基準割合+1%」のいずれか低い割合
- 納期限後2ヶ月を経過する日の翌日以後の期間相当分:年「14.6%」と「延滞税特例基準割合+7.3%」のいずれか低い割合
当然ながら、本来の申告期限からかなりの期間が経過してから無申告や過少申告を指摘された場合には延滞税が高額となることもあるため注意が必要です。
懲役などの刑罰
脱税は、懲役などの刑罰の対象となる場合があります。
刑罰は、それぞれ次のとおりです。
- 正当な理由なく提出期限までに申告書を提出しなかった場合(無申告犯):1年以下の懲役または50万円以下の罰金
- 提出期限までに申告書を提出せず、税金の納付を免れた場合(無申告ほ脱犯):5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金または併科
- 偽りまたは不正な行為により、税金の納付を免れたり、税金の還付を受けた場合:10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金または併科
脱税した場合にはこのような刑罰の対象になる可能性があることはよく知っておきましょう。
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まとめ
NFTや暗号資産は当初、課税ルールを含めた取り扱いが曖昧なままでした。
しかし、各国とも課税に関するルールが整備されつつあり、脱税防止策が強化されています。また、NFT自体に対する各種団体の自主規制や運用ガイドラインが整備されつつあります。
NFTや暗号資産で利益を得た場合には、必ず適切な申告と納税を行うようにしましょう。
Authense法律事務所には、NFTや暗号資産に詳しい弁護士が多く在籍しております。
NFTや暗号資産についてお困りの際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。
Authense法律事務所の弁護士が、お役に立てること
NFTの取扱いに関する議論は、本格化したばかりであることもあり、大変流動的です。そのため、規制当局の動向や最新のガイドラインを踏まえ、柔軟に対応していくことが求められます。
仮想通貨をはじめとしたブロックチェーン技術が一般化していく中で、規制がまだない空白の部分に対し、コンプライアンスも重視しながらどう取り組んでいくべきか、一度ご相談ください。