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遺留分侵害額請求を裁判で解決する流れ|調停・訴訟の違いと手続きを弁護士が解説

遺留分侵害額請求は、内容証明郵便等で遺留分侵害額請求権を行使する意思表示をしたうえで、協議で解決できない場合には、調停(家庭裁判所)または訴訟(地方裁判所・簡易裁判所)で解決を図ります。

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遺留分侵害額請求は、内容証明郵便等で遺留分侵害額請求権を行使する意思表示をしたうえで、協議で解決できない場合には、調停(家庭裁判所)または訴訟(地方裁判所・簡易裁判所)で解決を図ります。

遺留分侵害額請求に関するご相談をいただく中で、「話し合いができないので裁判に持ち込みたい」「調停と訴訟はどちらに進めばよいか」「内容証明を送ったあと何をすべきか」というご質問を多く受けます。裁判という言葉は一括りに使われますが、実際には調停と訴訟では申立先も進め方も大きく異なります。本記事では、内容証明郵便等の送付から裁判所での手続き、判決までの全体の流れを解説します。

遺留分侵害額請求とは——裁判になる前に押さえること

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遺留分侵害額請求とは、一定の相続人に保障されている最低限の相続分(これを「遺留分」といいます)が侵害された場合に、その不足分を金銭で支払うよう求める手続です(民法第1046条)。被相続人が遺言で財産の大半を特定の人に贈与又は遺贈した場合でも、遺留分権利者は侵害された遺留分に相当する金銭を請求できます。

引用元:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

遺留分侵害額の定義——平成30年の相続法改正で「金銭請求」に変わった

平成30年(2018年)の改正相続法の施行(令和元年7月1日)以前は「遺留分減殺請求(げんさいせいきゅう)」と呼ばれ、特定の財産の返還そのものを求める権利でした。現在は「遺留分侵害額請求」として、不動産や株式の現物返還ではなく、侵害された額に相当する金銭の支払いを求める権利に変わっています(民法第1046条第1項)。

この改正により、不動産の共有状態という複雑な問題が生じにくくなり、金銭による清算が原則となりました。一方で、「いくら請求できるか」の計算が重要になり、財産評価をめぐる争いが訴訟の主戦場になっています。

引用元:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

誰が誰に請求できるか

遺留分侵害額を請求できるのは遺留分権利者です。具体的には配偶者・子(代襲相続人を含む)・直系尊属(父母・祖父母)が遺留分権利者となります。

注意が必要なのは兄弟姉妹には遺留分がないという点です(民法第1042条)。兄弟姉妹は法定相続人として遺産分割の権利はありますが、遺留分は認められていません。この点を誤解してご相談に来られる方も少なくありません。

請求の相手方(支払義務者)は、遺留分を侵害する贈与又は遺贈を受けた人(受贈者又は受遺者)です。相続人が多い場合、誰に対してどの割合で請求するかを整理する必要があります。

時効を必ず確認する——「知ってから1年」の罠

遺留分侵害額請求権には厳格な期間制限があります(民法第1048条)。

  • 消滅時効:相続の開始および遺留分の侵害を知った時から1年
  • 除斥期間:相続開始から10年(上記の事実を知らなかった場合でも消滅)

「知ってから1年」は非常に短く、相続の開始(被相続人の死亡)を知り、かつ遺留分が侵害されていることを認識した時点から起算されます。遺言の存在を知っただけでは足りず、遺留分が侵害されている事実を把握してから1年です。

時効の起算点については個別の状況によって判断が異なる場合があるため、早急に弁護士にご相談されることをおすすめします。

引用元:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

まず「内容証明郵便」で意思表示をする

内容証明郵便の送付は、調停や訴訟の前に必ず行うべき第一歩です。内容証明郵便を送ることと調停を申し立てることは別々の行為であり、どちらかだけでは不十分な場合があります。

内容証明郵便の2つの役割

内容証明郵便には次の2つの重要な役割があります。

①遺留分侵害額請求権の行使

遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年以内に行使しなければ、時効によって消滅します(民法第1048条)。そのため、内容証明郵便には、単に資料の開示や話し合いを求めるだけでなく、相手方に対して「遺留分侵害額請求権を行使する」旨を明確に記載することが重要です。

内容証明郵便を送付したことにより、民法第1048条の1年の期間が6か月延長されるわけではありません。1年以内に遺留分侵害額請求権を行使する意思表示が相手方に到達すれば、同条の「1年間行使しないとき」には該当しなくなります。

なお、家庭裁判所に調停を申し立てただけでは、相手方に対する遺留分侵害額請求権の行使にはなりません。調停の申立てとは別に、相手方に対して権利を行使する旨の意思表示を行う必要があります。

②意思表示と到達日の証拠化

内容証明郵便は、「いつ・誰が・誰に・何を」請求したかを郵便局が証明する形式です。後に調停や訴訟になった際、「請求した事実」と「その日付」を証明する証拠になります。

内容証明と調停申立は「別々の行為」である

この点は見落とされやすいポイントです。遺留分侵害額請求の調停を申し立てただけでは、相手方に対して遺留分侵害額請求権を行使する旨の意思表示をしたことにはなりません。そのため、民法第1048条の1年の期間内に、調停の申立てとは別に、内容証明郵便などにより、相手方に対して遺留分侵害額請求権を行使する旨の意思表示を到達させる必要があります。

多くのケースでは、まず内容証明郵便により遺留分侵害額請求権を行使する旨の意思表示をし、その後、協議で解決できない場合に調停の申立てまたは訴訟の提起を検討するという流れが基本です。「内容証明郵便による権利行使」と「調停の申立て」は、それぞれ別途行う必要があることを理解しておくことが、期間制限による権利消滅を防ぐうえで重要です。

権利行使後の金銭債権の時効にも注意する

内容証明郵便によって遺留分侵害額請求権を行使すると、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを求めることができます。この金銭支払請求権については、民法第1048条の1年の期間制限とは別に、一般の債権に関する消滅時効が問題となります。一般の債権は、原則として、権利を行使できることを知った時から5年間、または権利を行使できる時から10年間行使しない場合、時効によって消滅します(民法第166条)。

したがって、1年以内に遺留分侵害額請求権を行使した後も、そのまま長期間放置してよいわけではありません。協議が長期化する場合には、訴訟の提起その他の適切な方法により、権利行使後の金銭債権についても時効を管理する必要があります。

内容証明の書き方・送付後にすること

内容証明郵便には決まった書式はありませんが、一般的に次の事項を記載します。

  • 請求者(自分)の氏名・住所
  • 相手方の氏名・住所
  • 被相続人の氏名・死亡日
  • 遺留分侵害額請求の意思表示(「遺留分侵害額を請求します」の明記)
  • 判明している範囲での請求額および算定根拠
  • 必要に応じた回答期限又は支払い期限の設定(例:本書到達から2週間以内)

遺留分侵害額請求権を行使する意思表示において、確定した請求額まで明示することは必須ではありません。遺産の全容や財産評価が判明していない場合には、請求額を後日確定または変更する旨を記載する方法もあります。ただし、具体的な金銭の支払いを求める段階では、可能な限り請求額とその算定根拠を明らかにすることが望まれます。

内容証明郵便には、原則として配達証明を付けて送付し、差出人が保管する内容証明の謄本、郵便物の受領証および配達証明書を保管します。内容証明郵便だけでは相手方への配達を証明できず、配達証明を付けることによって、相手方に配達された日を証明できます。

遺留分侵害額請求権の行使は、意思表示が相手方に到達した時に効力を生じるため、重要なのは発送日ではなく到達日です。相手方から回答がない場合や協議が整わない場合は、次の段階(調停または訴訟)に進みます。

内容証明郵便の文面の作成から送付先の確認まで、弁護士に依頼することで、権利行使として十分な文言になっているか、誰を相手方とすべきか、期間内に到達するかなどを確認できます。

特に民法第1048条の1年の期間が迫っている場合には、まず期間内に権利行使の意思表示が相手方に到達するよう手配することが重要です。調停申立てだけでは権利行使の意思表示にはならないため、調停準備の進捗にかかわらず、内容証明郵便による通知を先行させる必要があります。なお、権利行使によって発生した金銭支払請求権については、民法第1048条とは別に、一般債権の消滅時効が問題となります。内容証明郵便を送付した後も、協議を長期間放置せず、必要に応じて調停・訴訟その他の時効管理を行う必要があります。

協議(任意交渉)——まず当事者間で解決を試みる

内容証明を送付し相手方から回答があったら、まず当事者間の協議(任意交渉)を試みます。回答がない場合には、再度回答を求めるか、協議による解決が困難であるとして調停申立てに進むかを検討します。協議で合意できれば、調停や訴訟を経ずに解決できるため、費用・時間の面で負担を抑えられる可能性があります。

協議の進め方——弁護士代理の意義

協議は、当事者が直接交渉する場合と、弁護士を代理人に立てて交渉する場合があります。

弁護士を代理人にすることには次のメリットがあります。

  • 感情的になりやすい相続の場面で、法的な主張を冷静に整理して伝えられる
  • 遺留分額の計算・財産評価の根拠を適切に示せる
  • 相手方も弁護士を立てた場合に対等な立場で交渉できる
  • 合意内容を適切な形(合意書・公正証書)でまとめられる

特に分割払いで合意する場合には、相手方が支払いを怠った場合に備え、強制執行認諾文言を付した公正証書を作成することも検討されます。通常の合意書だけでは、その合意書を直接用いて強制執行できるとは限りません。

当事務所にご相談いただくケースでは、相手方が弁護士を立ててから初めてご連絡いただくパターンも多く、「相手だけ弁護士がいて不利な立場に置かれている」と感じて相談に来られる方も少なくありません。相手が弁護士を立てた時点で、こちらも弁護士への相談を検討することをおすすめします。

協議が決裂したら——次のステップへ

協議で合意できない場合は、家庭裁判所への遺留分侵害額の請求調停の申立て、または地方裁判所への訴訟の提起に進みます。どちらに進むかは次の「調停か訴訟か——どちらに進むかの判断基準」で解説します。

調停(家事調停)に進む——調停前置主義とは

遺留分侵害額請求事件は、家庭に関する事件として、原則として訴訟を提起する前に家庭裁判所へ家事調停を申し立てる必要があります(家事事件手続法第257条)。

調停前置主義とはどういう意味か

「調停前置主義」とは、一定の家事事件について訴訟を提起する前に調停の申立てを行うことが求められるルールです(家事事件手続法第257条)。これは「まず話し合いで解決する機会を設けてから訴訟に進む」という趣旨で設けられています。

調停を申し立てずに訴訟を提起した場合、受訴裁判所は、原則として事件を家事調停に付さなければなりません。ただし、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認めた場合は、そのまま訴訟手続を進めることがあります。

したがって、調停を経ずに訴訟へ進めるかどうかは、請求者が自由に選択できるものではなく、最終的には訴訟を受けた裁判所が判断します。


監修弁護士からのコメント
藤川 直史
Authense法律事務所
藤川 直史 弁護士
遺留分侵害額請求には、原則として調停前置主義が適用され、訴訟を提起する前に家庭裁判所の調停を経る必要があります。調停を経ずに訴訟を提起した場合でも、裁判所が調停に付することが相当でないと判断した場合には、そのまま訴訟手続が進められることがありますが、例外に当たるかどうかは裁判所が個別に判断します。

引用元:https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/lkazi_07_26/index.html

申立先(家庭裁判所)・管轄の決まり方

調停の申立先は家庭裁判所です。管轄は原則として相手方(受遺者・受贈者)の住所地を管轄する家庭裁判所です。複数の相手方がいる場合は、そのうちの1人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てることができます。

申立てができる人(申立人)は遺留分権利者またはその承継人であり、申立ての相手方は遺留分を侵害している遺贈・贈与を受けた人です。

引用元:https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/lkazi_07_26/index.html

申立に必要な書類

調停の申立には主に次の書類が必要です(事案によって追加書類が求められる場合があります)。

  • 申立書(裁判所所定の様式)および相手方の人数に応じた写し
  • 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 必要に応じ、先に死亡した子・代襲相続人等に関する戸籍謄本
  • 遺言書の写しまたは遺言書の検認調書謄本の写し(遺言がある場合)
  • 遺産に関する証明書類(不動産登記簿謄本・固定資産評価証明書・預貯金残高証明書等)
  • 進行に関する照会回答書
  • 収入印紙(1,200円程度)・郵便切手(裁判所指定の額)

引用元:https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/lkazi_07_26/index.html

必要書類や郵便料は裁判所ごと、また事案ごとに異なることがあるため、申立先の家庭裁判所の案内を確認する必要があります。財産評価に関する書類の準備は調停・訴訟の双方で重要になります。特に不動産が遺産に含まれる場合は、評価方法をめぐって当事者間の意見が対立しやすく、早期に資料を整えておくことが有利に働きます。

当事務所が対応した事例では、突然調停申立の通知が届き、どう対応すればよいか分からないというご相談も少なくありません。特に被相続人の死亡から日が浅い段階での申立ては、書類収集に時間がかかるため、早めの準備が重要です。

調停の流れ・期間の目安

調停は調停委員会(裁判官1名と調停委員2名以上で構成)が当事者双方から交互に話を聞き、解決案を提示しながら合意を促す手続きです。基本的には、当事者が直接顔を合わせることなく進めるため、感情的な対立が激しい案件でも比較的進めやすいとされています。

期間の目安は数か月〜1年程度ですが、遺産の範囲や評価が争点になる複雑な事案では1年以上かかることもあります。調停では裁判所が一方的に支払額を決定するのではなく、双方の合意があって初めて終了します(調停成立)。

調停成立と不成立——それぞれその後どうなるか

調停が成立した場合:調停調書が作成され、確定判決と同一の効力を持ちます。相手方が任意に支払わない場合は、調停調書に定められた給付条項に基づき、強制執行が可能です。

調停が不成立になった場合:調停が不成立になっても、自動的に訴訟へ移行するわけではありません。請求者が解決を求める場合には、改めて簡易裁判所または地方裁判所に訴訟を提起する必要があります。訴訟では、調停での話合いとは別に、請求原因、反論および証拠を訴訟手続に沿って整理し直します。

調停か訴訟か——どちらに進むかの判断基準

遺留分侵害額請求には原則として調停前置主義が適用されるため、請求者が調停と訴訟のいずれかを自由に選択できるわけではありません。通常は、まず家庭裁判所に調停を申し立て、調停で合意できなかった場合に、訴訟を提起するかどうかを検討します。

なお、調停を経ずに訴訟を提起した場合、そのまま訴訟を進めるか、事件を家事調停に付するかは、受訴裁判所が判断します。

調停と訴訟の違いを整理する

項目 調停(家庭裁判所) 訴訟(簡易裁判所または地方裁判所)
申立先 家庭裁判所 請求額が140万円以下の場合は簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所が原則
公開/非公開 非公開 原則公開
進め方 調停委員が仲介・合意形成 証拠に基づく主張・立証
解決の性質 合意(調停調書は確定判決と同一の効力をもち、強制執行が可能) 判決(確定すれば強制執行が可能)
期間の目安 数か月〜1年程度 1〜3年程度
費用の目安 印紙代は低廉 印紙代は請求額の約1〜2%目安

※費用・期間はあくまで目安です。事案によって大きく異なります。弁護士費用は含みません。

調停による解決が見込まれるケース・訴訟提起を検討するケース

遺留分侵害額請求には原則として調停前置主義が適用されるため、請求者が、最初から調停と訴訟のどちらかを自由に選択できるわけではありません。通常は、まず家庭裁判所に調停を申し立て、調停で合意できなかった場合に、改めて訴訟を提起するかどうかを検討します。

原則として、まず調停で解決を図る

調停では、裁判所が一方的に結論を決めるのではなく、調停委員会の仲介の下で当事者が話し合い、合意による解決を目指します。特に、次のような事情がある場合には、調停による柔軟な解決が期待できます。

  • 相手方との関係を完全に断絶したくない(今後も家族関係を続けたい等)
  • 遺産の評価について双方に歩み寄れる余地がある
  • 公開の法廷での審理を避けたい
  • 費用・時間を抑えて早期解決を目指したい

例外的に、調停を経ずに訴訟提起を検討する場合

調停による解決が現実的に見込めず、調停を先行させることが相当でないと考えられる特段の事情がある場合には、調停を経ずに訴訟を提起することを検討する余地があります。

例えば、事前の交渉が既に十分に尽くされ、相手方が一切の話合いを明確に拒絶している場合、相手方の所在不明等により調停での話合いが実質的に困難な場合、その他、緊急に司法判断を求める必要がある場合などが考えられます。

ただし、これらは法令に具体的な例外事由として列挙されているものではありません。また、単に相手方が請求を争っていることや、財産評価について対立があることだけで、当然に調停を省略できるわけではありません。

調停を経ずに訴訟を提起した場合、そのまま訴訟を進めるか、事件を家庭裁判所の調停に付するかは、受訴裁判所が個別の事情に基づいて判断します。請求者が直接訴訟を提起したとしても、裁判所によって調停に付される可能性があります。

調停が不成立になった場合

調停で合意できず不成立となった場合には、調停事件は終了します。自動的に訴訟へ移行するわけではないため、引き続き裁判所による解決を求める場合には、請求者が改めて簡易裁判所または地方裁判所に訴訟を提起する必要があります。

これらはあくまで目安です。実際の選択は弁護士と事案の状況を踏まえて判断することをおすすめします。

訴訟(簡易裁判所・地方裁判所)に進む場合

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調停が不成立となり、引き続き裁判所による解決を求める場合には、請求者が改めて簡易裁判所または地方裁判所に訴訟を提起します。調停が不成立となっても、訴訟へ自動的に移行するわけではありません。

また、例外的に調停を経ずに訴訟を提起した場合には、受訴裁判所が調停に付することが相当でないと認めない限り、原則として事件は家事調停に付されます。したがって、直接提訴した事件をそのまま訴訟として進めるかどうかは、最終的には裁判所が判断します。

訴訟では、公開の法廷で行われる口頭弁論を中心に、当事者が証拠に基づいて主張・立証を行い、最終的に判決を得る手続きです。訴訟の途中で、裁判上の和解により解決することもあります。

管轄(簡易裁判所・地方裁判所)と訴状の作成

第一審を簡易裁判所と地方裁判所のどちらに提起するかは、原則として「訴訟の目的の価額(訴額)」によって決まります。訴額が140万円以下の場合は簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所が第一審裁判所となります。

地域的な管轄については、被告の住所地を管轄する裁判所が原則です。ただし、遺留分侵害額請求は金銭の支払いを求める訴えであるため、義務履行地にも管轄が認められる場合があります。相手方が複数いる場合も含め、具体的な申立先は個別に確認する必要があります。

訴状には請求の趣旨(相手方にいくらの支払いを命じる判決を求めるか)・請求の原因(なぜ請求できるかの法的根拠)を記載します。

訴状の内容が適切でない場合は補正を求められることがあります。遺留分侵害額請求では、遺留分算定の基礎財産、贈与の範囲、財産評価、相手方ごとの負担額等を整理する必要があるため、訴状および証拠の作成には専門的な検討が必要となる場合があります。

主な証拠・書類の一覧

訴訟では、請求の根拠を証拠で示す必要があります。主な書類は次のとおりです。

  • 戸籍謄本(被相続人・相続人全員の関係証明)
  • 遺言書の写し(遺留分侵害の根拠)
  • 相続開始時の財産および債務を示す資料(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金・有価証券の残高資料、債務関係資料等)
  • 生前贈与を証明する書類(通帳・登記簿謄本・贈与契約書等)
  • 不動産その他の財産の評価資料(不動産鑑定書、不動産会社の査定書、路線価資料等)
  • 請求者が取得した遺贈、相続財産または特別受益に関する資料
  • 内容証明郵便の写し(権利行使の意思表示の証拠)および配達証明書(遺留分侵害額請求権を行使する意思表示の内容と到達日の証拠)

立証の難所

遺留分侵害額の算定で、特に争いになりやすいのは不動産をはじめとする財産評価額と生前贈与の事実および金額の立証です。遺留分算定の基礎となる財産の範囲については民法第1043条・第1044条が、遺留分侵害額の具体的な算定については民法第1046条が、受遺者・受贈者の負担順序および負担額については民法第1047条が定めています。

不動産評価の争い

不動産の価値は評価方法によって大きく異なります。遺留分を算定するための財産は、原則として相続開始時の価額を基準として評価します。固定資産税評価額や路線価は、それぞれ課税目的で算定された価額であり、当然に訴訟上の時価として採用されるわけではありません。

訴訟では、不動産鑑定士による鑑定書、不動産会社の査定書、近隣の取引事例、公的な評価資料等を提出し、その評価時点、評価方法および資料の信用性を争うことになります。請求額と鑑定費用との均衡も考慮して、必要な資料を選択します。

生前贈与の立証

相続人以外に対する贈与は、原則として相続開始前1年間にされたものが遺留分算定の基礎財産に算入されます。相続人に対する贈与については、婚姻・養子縁組のため、または生計の資本として受けた贈与のうち、原則として相続開始前10年間にされたものが対象となります。

ただし、贈与者と受贈者の双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をした場合には、上記の期間より前の贈与も算入されることがあります。

銀行の振込記録・通帳・不動産の登記変更の履歴、贈与契約書、贈与税申告書、メール・手紙その他のやり取り等を組み合わせて、贈与の事実、時期、金額および趣旨を立証します。単に金銭の移動があるだけでは、贈与ではなく貸付け、立替金の精算その他の支払いである可能性もあるため、その法的性質が争われる場合があります。

当事務所が対応した事例では、遺言による相続の後に相続人から突然訴訟を提起されたケースがあります。当初は財産評価と生前贈与の範囲をめぐる主張の対立から始まり、双方の主張整理に相当の時間を要した案件でした。訴訟においては、証拠の整理と専門家(鑑定士等)の活用が解決の鍵を握ります。


監修弁護士からのコメント
藤川 直史
Authense法律事務所
藤川 直史 弁護士
不動産評価では、相続開始時を基準時として、固定資産評価証明書、路線価、査定書、鑑定書等の評価目的と信用性を比較する必要があります。生前贈与については契約書が残っていないことも多いため、預貯金の移動履歴、登記記録、税務資料、当事者間の通信等の複数の証拠から、贈与の事実とその趣旨を立証します。

引用元:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

審理の流れ・期間の目安・判決後の強制執行

訴訟は通常、次の流れで進みます。

  1. 訴状の提出・受理
  2. 訴状の相手方への送達・第1回口頭弁論期日(概ね1〜2か月後)
  3. 書面の交換(主張・証拠の提出)
  4. 争点および証拠の整理
  5. 証人尋問・鑑定(必要な場合)
  6. 弁論終結
  7. 判決(弁論終結から1〜2か月後)

全体の期間は1〜3年程度が目安ですが、当事者数、争点、証拠の量、不動産鑑定や証人尋問の要否等によって大きく異なります。特に、財産の範囲、生前贈与または不動産評価が争われ、鑑定が必要となる場合には、審理が長期化することがあります。

確定判決または訴訟上の和解等の債務名義を得た後、相手方が任意に支払わない場合は強制執行(預金口座・不動産の差押え等)が可能になります。判決に仮執行宣言が付された場合には、判決確定前でも強制執行が可能となることがあります。

遺留分を請求された側の対応

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遺留分侵害額請求は、請求する側だけでなく請求された側にとっても、対応を誤ると大きな不利益を被る手続きです。請求された側の適切な初動対応がその後の展開を左右します。

内容証明が届いたらやること

当事務所に寄せられたご相談では、相手方の代理人弁護士から突然内容証明郵便が届いたり、裁判所から調停申立書や訴状が届いたりして、どう対応すればよいか分からないというご相談をいただくことがあります。まず落ち着いて、次の対応を取りましょう。

※このご相談例は、実際にAuthense法律事務所にお寄せいただいたご相談を、個人が特定されないよう内容・設定を一部変更して作成しています。

①届いた書面の内容を確認する

内容証明郵便か調停申立書かを確認し、記載されている請求額・根拠・回答期限を把握します。

②早急に弁護士に相談する

相手方がすでに弁護士を代理人に立てている場合は、こちらも弁護士を立てることが有効です。「回答期限」が示されている場合でも、法的な対応方針を立てずに独自に返答することはリスクがあります。

③財産評価資料を準備する

次の事項を確認するための資料を収集します。

  • 相続開始時の財産および債務の内容
  • 不動産その他の財産の評価
  • 被相続人が行った生前贈与の有無、時期および金額
  • 請求者が取得した遺贈、相続財産および特別受益
  • 遺留分侵害額請求権を行使する意思表示の内容および到達時期
  • 受遺者・受贈者が複数いる場合の負担順序および負担割合

調停申立を受けた場合の手続き

調停申立書が届いた場合、裁判所からの呼出しに応じ、期日に出席して事情や意見を説明する必要があります。正当な理由なく欠席を繰り返すと、話合いが進まず、調停が不成立となる可能性があります。遠方・体調不良等の合理的な理由がある場合は、早めに裁判所へ連絡し、期日変更や参加方法について相談します。

調停の場では、調停委員に対して自分の立場・主張・財産評価の根拠を冷静に説明することが重要です。弁護士を代理人にした場合、弁護士が期日に同席して主張を整理してくれます。

当事務所が対応した事例では、遺言どおりに相続手続を進めていた矢先に、他の相続人から調停を申し立てられたケースがあります。調停委員会に対して、遺言の有効性・遺留分の算定の根拠・特別受益の主張を整理して伝えることで、当初の請求額を大幅に下回る形での調停成立に至りました。

請求内容を検討する主なポイント

請求された側は、単に減額を求めるのではなく、遺留分侵害額の計算、請求相手および期間制限が正しいかを順に確認する必要があります。

遺留分侵害額の算定

遺留分侵害額は、遺留分額から、請求者が受けた遺贈・特別受益および請求者が相続により取得すべき遺産の価額を控除し、請求者が承継する相続債務の額を加算して算定します(民法第1046条第2項)。

特別受益の主張

請求してきた相続人が、生前に被相続人から、婚姻・養子縁組のため、または生計の資本としての贈与(学費・住宅購入資金の援助・生前の仕送り等)を受けていた場合、それを「特別受益」として遺留分の計算に組み込むことで、請求額を減らせる可能性があります。

請求者自身が受けた特別受益を遺留分侵害額から控除する場面では、遺留分算定の基礎財産への算入に関する「相続開始前10年間」という制限とは区別して検討する必要があり、10年より前の特別受益も控除対象となることがあります。

学費、生活費または仕送りが当然に特別受益となるわけではありません。贈与額、被相続人の資産・収入、贈与の目的、他の相続人との均衡等を踏まえて判断されます。

寄与分は当然の減額事由ではない

寄与分は、共同相続人間の遺産分割において、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした相続人の取得額を調整する制度です。遺留分侵害額の算定式には寄与分は含まれておらず、請求された側が被相続人の介護等を行っていたという事情だけで、遺留分侵害額が当然に減額されるものではありません。

未分割の遺産が存在し、遺産分割手続と遺留分侵害額請求が並行している場合には、両手続の関係を個別に整理する必要があります。

財産評価への異議

請求してきた側が提示する財産評価額が実勢価格と乖離している場合、適切な評価額(鑑定評価等)を対置して、基礎財産の額を争うことができます。不動産鑑定を依頼するかどうかは、評価額の差、請求額および鑑定費用との均衡を踏まえて検討します。

当事務所が対応した事例では、請求された側が寄与分や特別受益を主張することで、支払額を大幅に抑えることができたケースがあります。詳細な事実関係の整理と適切な証拠の収集が結果に直結する場面でした。


監修弁護士からのコメント
藤川 直史
Authense法律事務所
藤川 直史 弁護士
民法第1048条の1年は、「相続の開始」と「遺留分を侵害する贈与または遺贈があったこと」の双方を知った時から進行します。具体的な侵害額を正確に計算できていない場合でも、遺言や贈与の内容を知り、自己の遺留分が侵害されていることを認識していたと評価されれば、時効が進行する可能性があります。そのため、財産調査や評価が完了するまで待つのではなく、遺留分侵害の可能性を認識した段階で、期間内に権利行使の意思表示を行うことが重要です。

よくある質問(FAQ)

遺留分侵害額請求は必ず調停が必要ですか?

遺留分侵害額請求事件については、原則として調停前置主義が適用されるため、訴訟を提起する前に家庭裁判所へ調停を申し立てる必要があります。ただし、調停前置主義の適用については見解が分かれる場合があり、緊急性が高い場合や相手方の所在が不明な場合など、例外的に調停を経ずに訴訟を提起できる場合もあるとされています。個別の事情によって対応が異なるため、弁護士に相談のうえ進め方を決めることをおすすめします。

遺留分の調停と訴訟はどちらがよいですか?

請求者が最初から調停と訴訟のどちらかを自由に選択するのではなく、通常はまず調停を申し立て、調停が不成立となった場合に、訴訟を提起するかどうかを検討します。調停は非公開で、当事者の合意による柔軟な解決を目指す手続です。訴訟は、当事者の主張と証拠に基づき、裁判所が判決によって判断する手続です。調停が成立した場合の調停調書にも、確定判決と同様の効力があります。

遺留分の調停にはどれくらいの期間がかかりますか?

期間の目安は数か月〜1年程度です。ただし、遺産の範囲や財産評価に争いがある場合・相続人が多い場合などは1年以上かかることもあります。あくまで目安であり、個別の事案によって大きく異なります。

遺留分侵害額請求の裁判にかかる費用はどのくらいですか?

調停の場合、申立手数料(印紙代)は1,200円程度であり、このほかに連絡用の郵便料が必要です。郵便料は、裁判所の案内に従い、郵便切手または保管金として納付します。訴訟の場合は請求額に応じた申立手数料がかかります。2026年5月21日以降に提起する民事訴訟では、送達用の郵便費用は申立手数料に一本化され、電子申立てと書面申立てとで手数料が異なります。具体的な金額は、裁判所の最新の手数料額早見表をご確認ください。これらは裁判所に納める費用であり、弁護士費用、戸籍等の取得費用、不動産鑑定費用等は別途かかります。弁護士費用の目安は弁護士事務所によって異なるため、相談時に確認することをおすすめします。引用元:裁判所「遺留分侵害額の請求調停」

遺留分侵害額請求の時効はいつから始まりますか?

消滅時効は「相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年」です(民法第1048条)。「知った時」とは、相続開始(被相続人の死亡)を知り、かつ遺留分が侵害されていることを認識した時点です。また、相続の開始や遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知らなかった場合でも、相続開始から10年(除斥期間)で権利が消滅します。時効の起算点は個別の状況による判断が必要なため、早めに弁護士にご相談いただくことをおすすめします。なお、期間内に遺留分侵害額請求権を行使した後に生じる金銭支払請求権については、民法第1048条の1年の期間制限とは別に、一般の債権に関する消滅時効が問題となります。引用元:e-Gov法令検索(民法)

参考法令

  • 民法第1046条(遺留分侵害額の請求)
  • 民法第1047条(受遺者又は受贈者の負担額)
  • 民法第1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)

引用元:e-Gov法令検索(民法)

参考データ(公式)

本記事の内容は一般的な解説であり、具体的な事案については個別の判断が必要です。ご自身のケースについてのご相談は、Authense法律事務所までお気軽にお問い合わせください。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(大阪弁護士会)
大阪弁護士会所属。大学卒業後、企業にて18年にわたり法務業務に従事し、グローバルな法務実務を通じて磨いた現場目線の課題解決力を強みとする。弁護士登録後は家事事件も多数取り扱う。リスクが伴う場面でも前向きな選択肢を提示することを心がけており、企業の法務機能を支え、事業活動を円滑に進める実践的なリーガルパートナーを目指している。
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