自筆証書遺言の書き方・作成方法

自筆証書遺言とは、遺言者が全文や日付を自書して作成する遺言方式です。
もっとも手軽な遺言方式である一方で、無効となるリスクや偽造されるリスクが高いなど、デメリットも少なくありません。

では、自筆証書遺言はどのように作成すればよいのでしょうか?
ここでは、自筆証書遺言の記載例を紹介すると共に、自筆証書遺言作成方法や作成のポイント、公正証書遺言と比較した場合のメリット・デメリットなどについて弁護士がわかりやすく解説します。

自筆証書遺言とは

遺言書の方式には、主に次の3つが存在します。
それぞれ厳格な要件が定められており、所定の要件から外れた遺言書は法的な効力を持ちません。

  1. 自筆証書遺言
  2. 公正証書遺言
  3. 秘密証書遺言

このうち自筆証書遺言とは、遺言者が自書して作成する遺言書です。
自筆証書遺言を作成する要件は次のとおりです。

  • 遺言者が、その全文、日付、氏名を自書すること
  • 遺言者が押印すること

秘密証書遺言は実務上あまり利用されておらず、事実上は「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」との二択で検討することが多いでしょう。

自筆証書遺言を作成するメリット

遺言書を作成するにあたっては、自筆証書遺言と公正証書遺言の2つがよく比較検討されます。
公正証書遺言と比較した自筆証書遺言の主なメリットは次のとおりです。

費用がほとんどかからない

1つ目のメリットは、費用がほとんどかからない点です。
専門家へ依頼せず自分で自筆証書遺言を作成する場合には、特に費用はかかりません。

一方、公正証書遺言の場合は公証役場の公証人に対して支払う手数料が発生します。
公証役場の手数料は作成する遺言の内容や対象とする財産の額などによって異なりますが、数万円から十数万円程度となることが一般的です。

手軽に作成できる

自筆証書遺言の2つ目のメリットは、手軽に作成することができる点です。
すでに内容が決まっていれば、紙とペンと印鑑さえあれば、その場ですぐに作成することもできます。

一方、公正証書遺言の場合は資料の収集や公証役場の予約、証人との日程調整などが必要となるため、手軽に作成できるとはいえません。

他者に遺言の内容を知られない

3つ目のメリットは、遺言の内容を他者に一切知られることがない点です。

自筆証書遺言の作成には、証人などの立ち会い要件はありません。
そのため、誰にも内容を知られずに作成することが可能です。

一方、公正証書遺言は公証人の他、証人2名以上の立ち会いが必要となるため、少なくとも3人には遺言書の内容が知られることとなります。

自筆証書遺言の作成するデメリット

自筆証書遺言の方式を選択することには、デメリットも存在します。
公正証書遺言と比較した場合における自筆証書遺言のデメリットは次のとおりです。
なお、ここでは後ほど紹介する法務局での保管制度を利用しない前提で解説します。

無効になるリスクが高い

自筆証書遺言は一人で手軽に作成できる反面、無効になるリスクが低くない点が最大のデメリットです。
たとえば、日付を「吉日」とした場合や本文を自書しなかった場合、押印が漏れた場合などには、方式違背として無効となります。

また、最低限の要件は満たしていたとしても、文章に問題があったり遺産を渡す相手や財産の表記が誤っていたりすることで、事実上手続きに使用できない可能性や手続きが難航する可能性もあります。

公正証書遺言の場合は公証人が文章を組み立ててくれるため、無効となるリスクや手続きに使えないリスクはほとんどありません。

全文を手書きしなければならない

自筆証書遺言は、遺言者が全文を自書する必要があります。
これは自筆証書遺言において必須の要件であり、たとえ手の負傷や高齢などで自書が難しい事情があったとしても、要件が緩和されるものではありません。
そのため、自書ができない状況にある場合や、長い文章を正確に筆記できない場合には、自筆証書遺言を作成することは困難です。

一方、公正証書遺言の場合は遺言者が本文を自書する必要はありません。
公正証書遺言であっても原則として署名のみは必要となりますが、これも難しい場合には公証人が付記することで省略することが可能です(民法969条4号)。

偽造や隠匿をされるリスクがある

自筆証書遺言は作成後、原則として遺言書を自分で保管します。
そのため、偽造や変造、隠匿、破棄などをされるリスクが低くありません。

一方、公正証書遺言の場合には原本が公証役場で保管されるため、このようなリスクはほとんどないといえます。

相続が起きた後で検認が必要になる

相続が起きた後で自筆証書遺言を遺産の名義変更や解約に使用するためには、まず検認を受けなければなりません(同法1004条1項)。
検認とは相続開始後の遺言書の偽造や変造を防ぐために行う手続きであり、家庭裁判所で行います。
そのため、自筆証書遺言の場合には、すぐに名義変更などの手続きに入ることができません。

一方、公正証書遺言は、法律上検認は不要とされています(同法1004条2項)。

自筆証書遺言の記載例と作成方法

自筆証書遺言はどのように作成すればよいのでしょうか?
記載例と作成方法はそれぞれ次のとおりです。

記載例

自筆証書遺言の記載例は、次のとおりです。
ここでは、遺言者である相続太郎氏が、妻である相続花子氏に全財産を相続させる場合の記載例を紹介します。

遺言書

私、相続太郎(昭和10年1月1日生)は、次のとおり遺言する。

第1条 次の財産を含む私の所有するすべての財産を、私の妻である相続花子(昭和20年1月1日生)に相続させる。

1、土地
 所在 〇〇市〇〇1丁目
 地番  1番
 地目 宅地
 地積 200.00㎡

2、 建物
 所在 〇〇市〇〇1丁目1番地
 家屋番号 1番1号
 種類 居宅
 構造 木造瓦葺2階建
 床面積 1階 100.00㎡
     2階  80.00㎡

3、ABC銀行〇〇支店の預金すべて

4、XXX証券会社〇〇支店に預託する有価証券及びその他の資産すべて

第2条 本遺言の遺言執行者として、前記 相続花子 を指定する。

令和5年7月1日
〇〇県〇〇市〇〇一丁目1番地1号
相続 太郎 ㊞

作成方法とポイント

自筆証書遺言は、次のポイントを踏まえて作成しましょう。

遺言者が全文を自書する

自筆証書遺言は、遺言者が全文を自書しなければなりません。

なお、2019年(平成31年)1月13日に施行された改正法により、財産目録を別紙とした場合には、財産目録に限っては自書しなくてもよいこととされました。
ただし、その場合にはその財産目録のすべてのページ(用紙の両面に記載した場合には、両面とも)に遺言者が署名し押印することが必要です。

遺言者が日付を自書する

自筆証書遺言には、遺言者が作成の日付を自書しなければなりません。
この日付は具体的な日にちが特定できる必要があり、たとえば「令和5年7月吉日」などの表記は無効です。

遺言者が署名と押印をする

自筆証書遺言には、遺言者が署名と押印をしなければなりません。
印鑑の種類までは指定されていないものの、本当に遺言者本人が書いたものであることを明白とするためには、実印での押印が望ましいでしょう。

なお、遺言者の生年月日や住所の記載までは要件とされていません。
ただし、同姓同名の他者ではないという証明のため、可能な限り住所や生年月日を付記することをおすすめします。

自筆証書遺言の作成で将来のトラブルを避ける方法

自筆証書遺言の作成にあたって、将来のトラブルを避けるためには、どのような対策をとればよいのでしょうか?
トラブルを避ける主な方法は次のとおりです。

遺留分に配慮する

遺留分とは、被相続人の配偶者や子など一部の相続人に保障された、相続での最低限の取り分です。

遺留分割合は、父母などの直系尊属のみが相続人の場合は3分の1、配偶者と子どもが相続人の場合は2分の1であり、この割合に遺留分を持つ相続人の法定相続分を乗じた割合が、個々の相続人の遺留分となります。
たとえば、長男と二男の2名のみが相続人である場合、それぞれの遺留分は4分の1(遺留分割合2分の1×法定相続分2分の1)ずつです。

遺留分を侵害する内容の遺言書であったとしても、そのことを理由に遺言書が無効になるわけではありません。
たとえばこのケースにおいて、長男に全財産を相続させる旨の自筆証書遺言を作成することは可能です。
しかし、このような遺言書を遺すと、相続開始後に二男から長男に対して遺留分侵害額請求がなされるかもしれません。

遺留分侵害額請求とは、侵害された遺留分相当額を金銭で支払うよう請求することです。
つまり、二男から遺留侵害額請求をされた長男は、二男に対して、遺産の4分の1に相当する額の金銭を支払わなければなりません。

このように、遺留分を侵害する内容の遺言書を遺すと、相続が起きた後で遺留分侵害額請求がなされてトラブルとなる可能性があります。
そのため、自筆証書遺言を作成するにあたっては遺留分について理解をし、遺留分に配慮した内容とすることを検討する必要があるでしょう。

弁護士のサポートを受けて作成する

将来のトラブルを避けるため、自筆証書遺言の作成は弁護士など専門家のサポートを受けて行うことをおすすめします。

自筆証書遺言の作成方法を一つ間違えると、無効となってしまいかねません。
また、法律上の要件は満たしていても、財産を渡す相手や財産の記載が曖昧であれば手続きができない可能性もあります。
他にも、遺留分を侵害してトラブルとなるリスクもあるでしょう。

問題のない自筆証書遺言書を自分一人で作成することはさほど簡単なことではありません。
そのため、無理に自分で作成せず、専門家のサポートを受けることをおすすめします。

自筆証書遺言の保管制度を利用する

自筆証書遺言を自宅などで保管をすれば、偽造や変造、隠匿、破棄などがなされるリスクが生じます。
そうであるからといってあまり厳重にしまい込めば、相続が起きた後で見つけてもらえないかもしれません。

そこで検討したいのが、2020年(令和2年)7月10日に開始された、法務局での自筆証書遺言保管制度の利用です。
法務局での自筆証書遺言保管制度とは、あらかじめ作成した自筆証書遺言書を遺言者本人が法務局へ持ち込んで所定の手続きを踏むことで、法務局で自筆証書遺言を預かってもらえる制度です。

この制度を利用すれば、偽造や隠匿などのリスクを最小限に抑えることが可能となります。
また、相続開始後の検認が不要となるため、相続手続きがスムーズとなる効果も期待できます。

自筆証書遺言の作成サポートはAuthense法律事務所へお任せください

自筆証書遺言とは、遺言者が全文、日付および氏名を自書して作成する遺言書です。
手軽に作成ができる一方で、無効となるリスクや偽造されるリスクがあるなど、デメリットも少なくありません。

そのため、まずは本当に自筆証書遺言でよいのか、公正証書遺言とすべきかなど、ご家族の状況も踏まえ、慎重に検討することをおすすめします。
そのうえで、自筆証書遺言を作成する場合には、法務局での保管制度の利用も検討するとよいでしょう。

自筆証書遺言を自分で問題なく作成することは容易ではありません。
遺言書を作成するにあたっては、ぜひ弁護士などの専門家へご相談ください。

Authense法律事務所では、遺言書の作成など生前対策のサポートに力を入れています。
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(大阪弁護士会)
同志社大学法学部法律学科卒業、立命館大学法科大学院修了。離婚、相続問題を中心に、一般民事から企業法務まで幅広い分野を取り扱う。なかでも遺産分割協議や遺言書作成などの相続案件を得意とする。
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