コラム

公開 2022.01.11 更新 2024.03.28

相続税の小規模宅地等の特例とは?適用要件や計算例をわかりやすく解説

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小規模宅地等の特例とは、自宅の敷地や事業に使っている建物の敷地の評価額を、一定の要件下で最大8割減できる相続税の特例のことです。

小規模宅地等の特例を受けるには、相続税の申告が必要です。

小規模宅地等の特例の適用要件や適用を受けた場合や受けない場合で相続税額を計算して比較してみましょう。

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相続税の小規模宅地等の特例とは

相続税には、税金が安くなる様々な特例が存在します。
中でも税額への影響の大きい特例の一つが小規模宅地等の特例です。

まずは、小規模宅地等の特例について基本的な項目を解説していきましょう。

自宅の土地や事業用の土地が最大8割減で評価される特例

小規模宅地等の特例とは、被相続人が住んでいた自宅の敷地や事業に使っていた建物の敷地等を、一定の要件の下に最大8割減で評価ができる相続税の特例です。
例えば、評価額が5,000万円の土地であれば、小規模宅地等の特例の適用要件を満たすことで、最大1,000万円まで評価額を減らすことができます。

具体的な計算については後述しますが、かなりインパクトの大きな特例であることがお分かりいただけるのではないでしょうか?

評価が下がると相続税も下がる

相続税は、原則として、亡くなった人の持っていた財産が高額であればあるほど高くなる税金です。
そのため、小規模宅地等の特例を使って土地の価値を安く評価してもらえるということは、相続税が減額されることに繋がります。

相続税が支払えない場合には、相続財産を手放さなければならない可能性もあります。もっとも、小規模宅地等は、相続人の生活や事業にとって必須であることが多いです。そういった財産を手放さなくて済むよう、このような特例が設けられているのです。

必要となる書類

小規模宅地等の特例を受けるためには、相続税の申告をする必要があります。
相続税の申告に際し、小規模宅地等の特例を受ける場合に提出すべき主な書類は次のとおりです。

  • 相続関係を確認する書類:法務局で作成をした法定相続情報一覧図又は被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍、除籍及び原戸籍謄本や、相続人全員の戸籍謄本等です。コピーでも構いません。
  • 遺言書のコピー又は遺産分割協議書のコピー
  • 遺産分割協議書を提出する場合は、相続人全員の印鑑証明書
  • 相続税の申告期限内に遺産分割がまとまらない場合には、申告期限後3年以内の分割見込書

これらの他に、適用を受ける宅地について適用要件を満たすことの証明書類が必要です。

小規模宅地等の特例を使うと相続税はどれだけ減る?

小規模宅地等の特例を受けると、相続税はどのくらい減るのでしょうか?

では、「法定相続人は長男と二男の2名である」というケースを例に、相続税の金額を計算してみましょう。

    • 相続財産

    • 土地:1億円
    • 建物:3,000万円
    • 預貯金:2,000万円

なお、計算を簡便にするため、小規模宅地等の特例以外の適用は受けられないものとします。

小規模宅地等の特例の適用がなかった場合

上記のケースで、もし小規模宅地等の特例の適用がなかった場合の相続税は1,840万円です。
計算過程は、次のとおりです。

1.相続財産の価格の合計

1億円+3,000万円+2,000万円=1億5,000万円

2.課税の対象となる遺産総額

1億5,000万円-4,200万円=1億800万円
※相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
例では、3,000万円+600万円×2名=4,200万円

3.相続税額

長男:1億800万円×2分の1(法定相続分)=5,400万円
5,400万円×30%-700万円=920万円

二男:1億800万円×2分の1(法定相続分)=5,400万円
5,400万円×30%-700万円=920万円

総額:920万円+920万円=1,840万円

小規模宅地等の特例があった場合

上記のケースで小規模宅地等の特例を最大限適用された場合の相続税は、320万円です。
この場合、先ほどの小規模宅地等の特例の適用がなかった例と比較すると、1,520万円もの差が生じます。

計算過程は、次のとおりです。

1.相続財産の価格の合計

1億円-(1億円×80%)=2,000万円(小規模宅地等の特例の適用)
2,000万円+3,000万円+2,000万円=7,000万円

2.課税の対象となる遺産総額

7,000万円-4,200万円=2,800万円
※相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
例では、3,000万円+600万円×2名=4,200万円

3.相続税額

長男:2,800万円×2分の1(法定相続分)=1,400万円
1,400万円×15%-50万円=160万円

二男:2,800万円×2分の1(法定相続分)=1,400万円
1,400万円×15%-50万円=160万円

総額:160万円+160万円=320万円

小規模宅地等の特例を適用することで、税額に大きな差が出る場合もあることがお分かりいただけたのではないでしょうか。

小規模宅地等の特例の対象となる財産の種類

相続税の小規模宅地等の特例とは?適用要件や計算例をわかりやすく解説
これまで、小規模宅地等の特例が適用された場合に、大きな節税となることについて、説明してきました。
では、どのような財産が小規模宅地等の対象となるのでしょうか。
ここでは、特例の対象となる財産の種類について解説していきましょう。

小規模宅地等の特例の対象は土地のみ

まず、前提として、小規模宅地等の特例が受けられるのは、土地や借地権等の土地の上に存する権利(これらを合わせて「宅地等」といいます。)のみです。
土地の上に建っている建物や構築物には適用できません。

以下、特例の適用が受けられる土地の種類(特定居住用宅地等、特定事業用宅地等及び貸付事業用宅地等)について説明します。

特定居住用宅地等

特定居住用宅地等とは、次の宅地等です。

  • 相続開始の直前において被相続人本人の居住の用に供されていた宅地等
  • 相続開始の直前において被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地等

特定居住用宅地等は、要件を満たすことで330㎡までの部分が8割減で評価できます。

特定事業用宅地等

特定事業用宅地等とは、次の宅地等です。

  • 相続開始の直前において被相続人の事業の用に供されていた宅地等
  • 相続開始の直前において被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の貸付事業の用に供されていた宅地等

なお、特定事業用宅地等の対象となる事業からは、後述する貸付事業用宅地等の対象となる不動産貸付業、駐車場業や自転車駐車場業等の事業は除かれます。
特定事業用宅地等は、要件を満たすことで400㎡までの部分が8割減で評価できます。

貸付事業用宅地等

貸付事業用宅地等とは、次の宅地等です。

  • 相続開始の直前において被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等
  • 相続開始の直前において被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業の用に供されていた宅地等

なお、貸付事業とは、不動産貸付業、駐車場業や自転車駐車場業等を指します。
貸付事業用宅地等は、要件を満たすことで200㎡までの部分が5割減で評価できます。

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小規模宅地等の特例の適用要件

小規模宅地等の特例を適用するための要件は、その宅地の種別ごとに異なります。
その要件とは、次のとおりです。

共通の要件

小規模宅地等の特例を適用するための共通要件は、相続税の申告をすることです。
特例の期限内を受けたい場合は、特に期限に注意して相続税の申告をしましょう。

特定居住用宅地等の場合

特定居住用宅地等の要件は、その宅地の元々の使用者と取得者ごとに異なります。
宅地の使用者ごとに要件を見ていきましょう。使用者が、被相続人か被相続人の親族かで分けて説明します。

被相続人の居住の用に供されていた宅地等の場合

被相続人本人の居住の用に供されていた宅地等について小規模宅地等の特例を適用するための取得者ごとの要件は、次のとおりです。

  • 被相続人の配偶者:特に要件はありません
  • 被相続人の同居親族:相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその建物に居住し、かつ、相続開始時からその宅地等を相続税の申告期限まで有していること
    • その他の親族:原則として、次の要件をすべて満たすこと

    • 1. 被相続人に配偶者がいないこと
    • 2. 被相続人と同居していた相続人がいないこと
    • 3. 相続開始前3年間、日本国内にあるその人自身やその人の配偶者等の所有する家屋に居住したことがないこと
    • 4. 相続開始時に取得者が居住している家屋を、相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと
    • 5. その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること

被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地等の場合

一定の親族の居住の用に供されていた宅地等について、小規模宅地等の特例を適用するための要件は次のとおりです。

  • 被相続人の配偶者:特に要件はありません
  • 被相続人と生計を一にしていた親族:相続開始前から相続税の申告期限まで引き続きその家屋に居住し、かつ、相続税の申告期限までその宅地等を有していること

特定事業用宅地等の場合

特定事業用宅地等に、小規模宅地等の特例を適用するための要件は、事業継続要件と保有継続要件の2つがあります。

  • 事業継続要件:被相続人から引き継いだ事業又は相続開始の前から親族が営んでいる事業を、申告期限まで営んでいること
  • 保有継続要件:その宅地等を相続税の申告期限まで有していること

貸付事業用宅地等の場合

貸付事業用宅地等に、小規模宅地等の特例を適用するためには、特定事業用宅地等と同様に事業継続要件と保有継続要件の2つがあります。

  • 事業継続要件:相続税の申告期限まで、被相続人から引き継いだその宅地等に係る貸付事業又は相続開始の前から親族が営んでいるその宅地等に係る貸付事業を行っていること
  • 保有継続要件:相続税の申告期限までその宅地等を有していること

小規模宅地等の特例が受けられるかどうかケース別に解説

相続税の小規模宅地等の特例とは?適用要件や計算例をわかりやすく解説
最後に、小規模宅地等の特例の適用が受けられるか否かがよく問題となるケースを2つ紹介します。

二世帯住宅に住んでいた場合

被相続人が子の世帯との二世帯住宅に住んでいた場合、子が二世帯住宅の敷地を相続した場合に小規模宅地等の特例を受けられるかどうかは、その建物の登記が区分所有となっているかどうかによって異なります。

区分所有となっている場合、原則として、小規模宅地等の特例の適用はできません。
区分所有とは、数個の部分に区分して所有することです。区分ごとに売却することができます。
分譲マンションをイメージすると分かりやすいのではないでしょうか。

二世帯住宅として使用している建物が区分所有となっておらず、一般の戸建てと同じような一体型の登記になっている場合は、原則として、小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
また、建物の構造上建物内部では行き来ができない場合、区分所有にあたり、小規模宅地等の特例の適用を受けられないこととなりそうですが、登記簿上区分所有となっていないのであれば、小規模宅地等の特例の適用ができるのです。

登記の形態によって小規模宅地等の特例が受けられるかどうかに違いが生じますので、二世帯住宅にお住いの場合や、これから二世帯住宅に住みかえようという際には、あらかじめ弁護士や税理士等の専門家へ相談することをお勧めします。

老人ホームへ入所した場合

被相続人が老人ホームへ入所して自宅から離れて暮らしていた場合であっても、小規模宅地等の特例を適用することができる場合があります。
老人ホームへ入所していても特例の適用を受けるための要件は、次のとおりです。

  • 被相続人が要介護認定や要支援認定を受けて施設へ入所したこと
  • 入所した施設が老人保健法に規定する養護老人ホーム等、一定の要件を満たす施設であること
  • 被相続人の居住の用に供されなくなった後に、その宅地を他の用途で使用していないこと

これらの要件を満たせば、被相続人が相続開始の直前に自宅に住んでいなかった場合であっても、小規模宅地等の特例の適用が受けられます。

まとめ

小規模宅地等の特例は、非常に大きな節税につながる可能性のある制度です。
もっとも、その要件は複雑で、要件を満たさなければ特例の適用は受けられません。

小規模宅地等の特例を受けたい場合には、生前対策や相続手続全体について、相続が起きる前の早い段階から専門家へ相談しておくことをおすすめします。

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