コラム

公開 2022.11.25 更新 2024.03.13

成年後見人にかかる費用はどれくらい?誰が払う?手続き費用と継続費用を弁護士が解説

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成年後見人をつけた場合、その報酬や手続き費用はどの程度であると考えておけばよいのでしょうか?
今回は、成年後見制度の利用にかかる報酬や費用の金額を紹介し、これらの費用は誰が負担すべきであるのかなどについて弁護士が詳しく解説します。

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成年後見人とは

判断能力がない常況にある人が自分で財産管理などをしていると、よくわからないままに訪問販売で高額商品を売りつけられてしまうなど、不利益を被る可能性が高いでしょう。
また、このような人は、原則として有効に法律行為をすることができません。

そのため、例えばその人が相続人となる相続が発生した場合、財産分けの話し合いである遺産分割協議において、困った事態となってしまいます。
遺産分割協議には相続人全員の参加が必要であり、相続人の中に認知症の人などがいる場合であっても、認知症の人を除外して遺産分割協議を有効に成立させることはできないためです。

他にも、施設へ入所するための費用を捻出するために本人名義の自宅不動産を売却したり定期預金を解約したりしようにも、本人に判断能力がない以上、不動産の売買契約を有効に成立させたり定期預金を解約したりすることも困難です。

このような事態に対応するため、判断能力がないのが通常の状態となってしまった本人に代わって、財産管理や契約行為などを行う「成年後見制度」が設けられています。
この役割を担うのが、家庭裁判所で選任された「成年後見人」です。

成年後見人には本人の親族が選任されるケースもありますが、後述のように、弁護士や司法書士などの専門家が選任されるケースの方が多くなっています。

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費用を抑えるため親族が成年後見人になることは可能?

後ほど解説しますが、成年後見人に専門家が選任されると、成年後見人に対して毎月の報酬が発生します。
では、その費用を抑えるために、親族が成年後見人となることは可能なのでしょうか?

誰が成年後見人になるかは家庭裁判所が決める

実は、誰を成年後見人とするのかについては、申立人側で最終決定をすることはできません。
成年後見制度を利用したい旨の審判を家庭裁判所へ申し立てる際に、成年後見人の候補者を記載することはでき、その候補者を親族とすること自体は可能です。

しかし、最終的に誰を成年後見人として選任するかを決めるのは家庭裁判所です。
そのため、記載をした候補者が必ずしも選任されるとは限りません。

また、希望どおりの親族ではなく、専門家が成年後見人として選任されたからといって、そのことを理由に後見開始の申し立てを取り下げることは認められないことにも注意が必要です。

本人に対して成年後見人をつけるべきであると家庭裁判所が判断をした以上、成年後見人を付けないことは本人の福祉に反することであると考えられるためです。

選任された成年後見人は7割近くが専門家

厚生労働省が公表している「成年後見制度の現状」(令和4年8月版)によると、令和3年中に選任された成年後見人の内訳は、次のようになっています。

  • 親族以外:80.2%(31,719件)
  • 親族(子や兄弟姉妹など):19.8%(7,852件)

そして、この「親族以外」のうち、弁護士や司法書士、社会福祉士といった専門家が選任されたのが86.5%(27,441件)となっており、これは全体の約69%にあたります。
このことから、親族が成年後見人となるケースが約2割であるのに対し、約7割という多くのケースで専門家が選任されている現状が伺えます。

専門家が成年後見人に選任される可能性が特に高いケース

次のようなケースでは、特に専門家が成年後見人として選任される可能性が高いでしょう。

本人の財産が多い場合

本人の財産が多い場合や、本人が複数棟のアパート経営を行っていたなどで財産管理が複雑である場合などには、専門家が成年後見人として選任されるケースが多いでしょう。

成年後見人の財産を専門家が横領したなどとしてニュースなどで取り上げられる場合もありますが、実態としては親族による横領のほうが圧倒的に多いとされています。

また、近しい親族であればあるほど成年後見人自身の財布と、本人との財布を明確に分けられず、悪気のないまま使い込みをしてしまうケースもあることでしょう。

そのため、裁判所としては、多額の財産管理を親族に任せることを避ける傾向にあるといえます。

親族内に適切な人がいない場合

親族内に適任者がいない場合には、専門家が後見人として選任される可能性が高いでしょう。

たとえば、本人の居住地の近くに居住している親族が誰もいない場合や、近くに子などがいるにもかかわらず、本人との関係性が悪く成年後見人を引き受ける気がない場合などです。

親族内に争いがある場合

誰を成年後見人とするのかということや財産の管理方法の方針などについて親族内で争いがある場合には、専門家が後見人として選任される可能性が高いでしょう。

この場合、親族を成年後見人として選任してしまうと、親族間の関係性がさらに悪化したり、別のトラブルの原因となる可能性もあるためです。

成年後見人が親族の場合は成年後見監督人がつくことも

仮に親族が成年後見人に選任されたからといって、後見人の報酬がまったく掛からないわけではありません。
なぜなら、遺産分割協議が予定されている場合などにおいて、親族が成年後見人となるケースでは、その成年後見人を監督する「成年後見監督人」として、専門家が別途選任される場合もあるためです。

この場合には、成年後見監督人に対して月々の報酬が発生します。

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成年後見人をつける手続きにかかる費用

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成年後見人を新たにつけるための手続きでかかる費用は、主に次のとおりです。
なお、ここで解説する費用は申し立てをするにあたって必要となる費用であり、継続的にかかるものではありません。

家庭裁判所へ支払う費用

成年後見人をつけてもらう「後見開始の申立て」手続きに必要な費用は次のとおりです。

  • 申立手数料:収入印紙800円分
  • 登記手数料:収入印紙2,600円分
  • 連絡用の郵便切手代:裁判所によって多少異なるものの、おおむね3,000円から4,000円程度

医師の診断書や鑑定費用

成年後見人をつけてもらう後見開始の申し立てをするにあたっては、医師の診断書が必要となります。
診断書の取得費用は医師によって異なりますが、数千円程度であることが多いでしょう。

また、裁判所が必要であると判断した際には、これとは別途、医師の鑑定が必要となる場合もあります。
医師の鑑定にかかる費用は、おおむね5万円から10万円程度です。

必要書類の取得費用

後見開始の審判を申し立てるには、次のような書類が必要となります。

  • 本人の戸籍謄本(発行から3か月以内のもの)
  • 本人の住民票(発行から3か月以内のもの)
  • 不動産登記事項証明書など

これらの取得にかかる費用は本人の所有している不動産の数などによって異なりますが、おおむね数千円程度となることが多いでしょう。

なお、個々の事情によりその他の書類も必要な場合がありますので、裁判所やサポートを依頼している専門家の指示に従ってください。

専門家報酬

成年後見制度の利用を始める際に必要な後見開始の審判は、自分で申し立てをすることもできますが、専門家のサポートを受けることも可能です。
それにより申し立てに必要な書類を自分で記載したり集めたりする手間を大きく軽減することができるほか、成年後見制度を利用するにあたっての注意点など、個別事情に応じたアドバイスを受けることが可能となります。

申し立ての手続きを専門家に依頼した場合の報酬は、専門家の属性に応じて、おおむね次のとおりです。

  • 司法書士:10万円程度~
  • 弁護士:20万円程度~

ただし、これはあくまでも目安であり、報酬額や報酬の計算方法は専門家によって異なります。
そのため、正確な金額を知りたい場合には、依頼を検討している先の事務所へ個別に問い合わせるとよいでしょう。

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成年後見人へ支払う報酬や費用

成年後見人などに対して定期的にかかる報酬や費用は次のとおりです。

なお、これらの報酬額は成年後見人として選任された弁護士や司法書士などの専門家がそれぞれ勝手に決められるものではなく、家庭裁判所が決めることとなっています。

成年後見人の報酬相場

厚生労働省が公表している「成年後見制度の現状」(令和4年8月版)によれば、成年後見人が専門家である場合にかかる基本報酬額は、成年後見人が管理をする財産の額によって、それぞれ次のとおりです。

  • 1,000万円以下:月額2万円程度
  • 1,000万円超5,000万円以下:月額3万円から4万円程度
  • 5,000万円超:月額5万円から6万円程度

また、身上監護などに特別困難な事情があった場合には、上で挙げた基本報酬額の50%の範囲内で、相当額の報酬が加算される場合があります。

さらに、たとえば本人が施設に入る費用を捻出するために自宅を売却するなど、成年後見人が特別な事務を行った場合には、相当額の報酬が追加されます。

成年後見監督人の報酬相場

専門家である成年後見監督人が選任された場合の報酬相場は、管理する財産の額によって、次のとおりです。

  • 5,000万円万円以下:月額1万円から2万円程度
  • 5,000万円超:月額2万5,000円から3万円程度

また、成年後見人などの不正があり、後任の成年後見人などがその対応にあたったような場合には、成年後見監督人の報酬が増額されることもあります。

親族が成年後見人となった場合に報酬は受けられる?

親族が成年後見人に選任された場合、報酬を受け取らない場合が多いと思われます。
しかし、親族であるからといって報酬を受け取る権利がないわけではなく、裁判所に対して報酬付与の申し立てをすることで、報酬を受け取ることが可能です。

成年後見人の職務は責任が大きく、また裁判所への報告などの手間もかかります。
親族が報酬を受け取ることは決して悪いことではありませんので、正当な報酬を受け取ることも検討するとよいでしょう。

成年後見人をつける手続き費用や成年後見人などへの報酬は誰が払う?

ここまで解説をしてきた成年後見人をつける際の手続きにかかる費用や、成年後見人などに対して毎月かかる報酬などは、誰が支払うものなのでしょうか?

成年後見人をつける手続き費用は申立人が支払うのが原則

後見開始の申立て費用や書類取得費用、サポートを受けた専門家報酬などは、申立人が支払うことが原則です。

ただし、裁判所からの要請で鑑定を行った場合において、裁判所の審判で本人負担とされた場合には、鑑定に要した費用は本人の財産から精算することが可能です。

成年後見人などへの報酬は本人の財産から支払うのが原則

選任された成年後見人や成年後見監督人に支払う報酬は、本人の財産から支払うべきものです。

成年後見人の報酬が払えない場合の対応策

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成年後見制度を利用する必要性があるものの、成年後見人の報酬を負担していけるだけの財産がない場合もあるかと思います。

そのような場合には、次の制度の利用を検討しましょう。

成年後見制度利用支援事業

成年後見制度利用支援事業とは、費用の問題によって成年後見制度の利用が困難な場合に、成年後見制度の申し立てに要する経費や成年後見人の報酬の一部の助成が受けられる制度です。

令和2年4月1日時点において、全市町村の95%にあたる1,654市町村でこの制度の利用が可能となっています。

金銭的な負担の問題から成年後見制度の利用に二の足を踏んでいる場合には、ぜひ本人が居住する市区町村役場へ問い合わせてみるとよいでしょう。

まとめ

成年後見制度は、認知症などにより自分での財産管理などが難しくなってしまった人の財産を守るための制度です。
制度の利用には費用はかかるものの、お困りの際にはぜひ利用を検討すべきでしょう。

また、自身が将来認知症などになってしまったときに備えたいという場合には、「任意後見制度」の利用を検討することもおすすめします。
任意後見制度では、あらかじめ公正証書で契約を締結しておくことにより、将来判断能力が衰えた際に、その契約を結んだ相手に後見人となってもらうことが可能となります。

Authense法律事務所では、成年後見制度や将来への備えとしての任意後見制度などに詳しい専門家が多数在籍しております。
成年後見制度についてお困りの際や、将来判断能力が衰えてしまう事態に備えたい場合などには、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。

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記事を監修した弁護士
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(第二東京弁護士会)
第二東京弁護士会所属。創価大学法学部卒業。創価大学法科大学院修了。不動産会社やIT企業などの顧問弁護士として企業法務に携わるとともに、離婚や相続をはじめとする一般民事、刑事弁護など、様々な案件に取り組んでいる。また、かつてプロ選手を志した長年のサッカー経験からスポーツ法務にも強い意欲を有し、スポーツ法政策研究会に所属し研鑽を重ねる等、スポーツ法務における見識を広げている。
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