コラム

相続放棄のメリットとデメリットとは?判断基準を弁護士が解説

相続放棄には、メリットもデメリットもあります。被相続人が負っていた負債を承継したくないとき、他の相続人との遺産分割を巡る熾烈な争いに巻き込まれたくないときなどには、相続放棄は、有効な手段となりえます。他方で、相続放棄が可能な期限(相続開始を知ったときから3か月以内)や、一度、相続放棄をすると原則として撤回できないなど、相続放棄には注意点もありますので、相続放棄のメリット・デメリット、注意点をよく理解して、相続放棄をすべきかどうか、正しく慎重に判断しましょう。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(神奈川県弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。相続を中心に、離婚、不動産法務など、幅広く取り扱う。相続人が30人以上の複雑な案件など、相続に関わる様々な紛争案件の解決実績を持つ。

1.相続放棄とは

相続放棄とは、相続人が、被相続人のプラスの財産も、借金などのマイナスの財産も一切承継しないようにするための手続きのことをいいます。相続放棄をしたら、その人は「始めから相続人ではなかった」扱いになるので、被相続人の資産も負債も一切承継しません。
なお、第1順位の相続人(被相続人の子)が全員相続放棄をした場合には、相続権は、第2順位(被相続人の父母等の直系尊属)、第3順位(被相続人の兄弟姉妹)の相続人に移りますので、自分が、被相続人の子である場合で相続放棄をする場合であっても、被相続人の借金が、さらに自分の子供(被相続人の孫)に承継されるということはありません。

2.相続放棄のメリット

相続放棄には以下のようなメリットがあります。

2-1.借金や負債を相続せずに済む

被相続人が、借金や未払い家賃、滞納税などの負債を遺して死亡したときは、原則として、相続人がこれらの負債(債務)を承継することになります。
相続放棄をした場合には、これらの負債を一切承継せずにすむので、相続する予定の財産の範囲内で、被相続人の負債を弁済することができない可能性が高い場合には、相続放棄によって大きなメリットを受けられるでしょう。

2-2.遺産相続の手間をかけずに済む

戸籍の調査、財産の調査、遺産分割協議書の作成、不動産の名義変更、預貯金の払い戻し、証券口座の開設や株式の移転など、遺産相続には面倒な手続きがたくさんあります。相続放棄をしてしまったら、こうした相続手続きをする必要はありません。
特に、被相続人や、その他の相続人と疎遠で、遺産相続に関心のない方は、相続放棄をして遺産相続の手間から解放されるメリットが大きくなるでしょう。

2-3.相続争いに巻き込まれずに済む

相続人同士で遺産相続の方法について合意ができないと、遺産分割協議が紛糾してしまうケースが多々あります。
いったん相続争いが発生すると家庭裁判所で遺産分割調停や審判手続きを踏むことが必要になるケースもあり、このような場合、最終的な解決までに1~2年かかってしまうケースも少なくなく、中には、3年以上かかるケースもあります。相続人たちはその間、相続人同士の感情的な言い争いに巻き込まれ、前向きな気持ちで人生を歩むことが難しくなりますし、多大なストレスがかかり続けることも考えられます。
相続放棄をしてしまったら無駄な相続争いに巻き込まれる心配は不要です。貴重な人生の時間を有意義に使えるという点もメリットの一つです。

2-4.特定の相続人に遺産を集中させられる

長男が父親の事業を承継する場合など、特定の相続人へ遺産を集中させたいご家庭では、相続放棄が役立ちます。承継させたい相続人以外のすべての相続人が相続放棄をすると、資産だけではなく負債も承継者へ集中させられるからです。
特定の相続人へ遺産も負債も集中させたいなら、相続人同士で話し合って他の相続人が早めに全員相続放棄しましょう。

3.相続放棄のデメリット

相続放棄には以下のようなデメリットがあります。

3-1.資産も相続できない

借金を相続したくない場合、相続放棄が有効な対処方法となるのは事実です。ただ借金だけではなく資産も残っている場合、相続放棄したら資産も一切相続できません。
高額な預貯金や価値のある不動産などがあっても、相続放棄をしてしまうと一切相続することができないので、資産超過のケースで相続放棄すると損をしてしまう可能性があります。

3-2.撤回できない

相続放棄をしても、後で高額な資産が見つかったら「やっぱり相続したい」と考える方もおられるでしょう。
しかしいったん相続放棄をしたら、後に高額な資産が見つかっても撤回できません。
詐欺や強迫によって強制的に相続放棄をさせられたケースや未成年者が親に無断で相続放棄をしたケースなど、一部、相続放棄の「取り消し」が認められる場合もありますが、「詐欺」や「脅迫」等を立証することが困難ですし、別途の手続きが必要になりますので、基本的には相続放棄の「撤回」や「取り消し」は難しいと考えておいた方がよいものと思います。
このように、いったん「相続放棄」をしてしまうと、は後戻りができないというデメリットもあるので、相続放棄の際には、慎重な判断が必要です。

3-3.他の相続人に迷惑をかけるおそれがある

上記のとおり、第1順位の相続人が全員で相続放棄をすると、次順位の相続人へ相続権が移ります。すなわち、子ども(第1順位の相続人)が相続放棄をすると、親(第2順位)や兄弟姉妹(第3順位)へ相続権が移ります。

「借金を相続したくない」からといって、次順位の相続人に何も伝えずに相続放棄をしてしまうと、債権者が、突然、次順位の相続人に対し支払いを求める可能性が高まります。このような場合、請求された次順位の相続人から、相続を放棄した者へ問い合わせが来て、トラブルになりかねません。

このように、第2順位や、第3順位の相続人に、事前に何も連絡しないで相続放棄をしてしまった場合、親族関係が悪くなる可能性もあるので、相続放棄の前に次順位の相続人へ事情を伝え、次順位の相続人も、その後に相続放棄をするよう伝えておくことをお勧めします。

4.相続放棄の注意点

相続放棄をするときには、以下の点に注意しましょう。

4-1.期限がある

相続放棄には「熟慮期間」という期限があります。熟慮期間とは、原則として「相続開始を知ってから3ヶ月以内」に相続放棄をしなければならないという期間制限です。
被相続人が死亡した後3ヶ月間放置していたら、自然に「単純承認」が成立して、負債も相続しなければならなくなります。
相続したくないのであれば、早めに家庭裁判所で「相続放棄の申述」を行いましょう。

4-2.全員が相続放棄したら「管理義務」が残る

相続放棄をしたら、上述のように、負債を承継する必要がなくなるのが原則です。
しかし相続放棄をした場合でも、その他の相続人や、次順位の相続人、相続財産管理人など、次の財産管理者が現れるまで、放棄者であっても遺産の管理を継続しなければなりません。不注意によって財産を毀損すると、債権者に賠償金を払わねばならなくなる可能性もあります。
さらに、相続人が全員相続放棄をしてしまって、相続人がいなくなった場合、相続放棄をした相続人らは、家庭裁判所で「相続財産管理人」が選任されるまで、被相続人の財産の管理を継続しなければなりませんが、相続財産管理人の選任手続きは、非常に面倒で、高額な費用がかかる手続きです。このように、「相続人が全員相続放棄する」可能性がある場合には、相続放棄をするには、慎重な判断が必要となるでしょう。

4-3.遺産に手をつけると相続放棄できなくなる

遺産に手をつけた相続人は、相続放棄できなくなります。このような場合には自動的に「単純承認」が成立してしまうからです。
たとえば被相続人の遺産である預金を使ったり自分の口座に移したり、被相続人の不動産や株式を売却したりすると、その相続人は、その後相続放棄ができなくなると考えましょう。
相続放棄を考えているなら、原則として、被相続人の遺産を消費したり、処分したりしてはいけません。

5.相続放棄すべきかどうか、判断基準

5-1.債務超過なら相続放棄する

債務超過であれば相続放棄を検討しましょう。資産超過であれば基本的に相続放棄する必要はありません。

5-2.遺産に関心がないなら相続放棄してかまわない

ぜひとも相続したい遺産がある、できるだけ高額な遺産をもらいたいなど遺産に高い関心を持っている場合で、被相続人の遺産の範囲内で、被相続人の債務を賄える場合には、相続放棄をしない方がよいかと思います。反対に、被相続人の負債が高額で遺産から賄うことができず、被相続人の遺産の中で特に取得したい財産もない場合や、熾烈な争続争いが起こりそうな場合でこれに巻き込まれたくない場合などには、相続放棄を検討しましょう。そのほか、被相続人の負債が高額で、被相続人の財産から被相続人の負債を弁済することは困難ではあるものの、相続財産の中に、どうしても取得したい財産がある場合など、「単純承認」も「相続放棄」も選び難いような場合には、被相続人の財産の範囲内で、被相続人の債務を弁済する「限定承認」という手続きもあります。ただし、「限定承認」の手続きは、非常に複雑で、時間も費用も要する手続きですので、この手続きを選択される前に、専門家に手続きの詳細や必要となる費用などをお尋ねになることをお勧めします。

5-3.他に相続人がいるなら相続放棄しても不利益が小さい

他に単純承認する相続人がいて被相続人の財産の管理を継続できる人物がいるなら、相続放棄をしても遺産の管理義務が及びません。このような場合は、安心して相続放棄できるでしょう。
一方で、他に相続人がいない場合や全員が相続放棄をする場合には、相続放棄後も、相続財産管理人が選任されるまで、財産の管理を継続しなければなりません。
他に、財産の管理を継続できる相続人がいない場合は、相続放棄をするかどうか慎重に判断しましょう。

まとめ

相続放棄にはメリットだけではなくデメリットもたくさんありますし、「相続開始後3ヶ月以内」という期限(熟慮期間)も適用されます。
迷ったときには弁護士にご相談いただけましたら、状況に応じてアドバイスをいたします。相続放棄の手続き代行も承りますので、よろしければ一度、ご相談ください。

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