コラム

公開 2023.02.10 更新 2024.02.26

法務局での遺言書保管制度「自筆証書遺言書の保管制度」とは?利用方法と注意点

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令和2年(2020年)7月10日から、自筆証書遺言の保管制度がスタートしています。
自筆証書遺言の保管制度とは、自筆証書遺言書を法務局で預かってもらえる制度です。

では、自筆証書遺言の保管制度を利用する際の流れは、どのようになるのでしょうか?
また、利用にはどのようなメリットや注意点があるのでしょうか?

今回は、自筆証書遺言の保管制度について、弁護士がくわしく解説します。

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自筆証書遺言書の保管制度とは

自筆証書遺言の保管制度とは、どのような制度なのでしょうか?
はじめに、制度の概要や背景、制度開始時期について解説します。

制度の概要と背景

自筆証書遺言の保管制度とは、自筆証書遺言書を法務局で保管してもらえる制度です。

遺言書には主に次の3つの形式があり、自筆証書遺言と公正証書遺言がよく使用されています。

  • 自筆証書遺言
  • 公正証書遺言
  • 秘密証書遺言

このうち、自筆証書遺言は手軽に作成できるものの、法定の要件を満たしていなかったり、遺言書の内容に不服のある関係者が遺言書を偽造したり隠匿したりするリスクなどがあり、問題視されていました。

そこで、遺言書を作成する人の裾野を広げる目的で、自筆証書遺言の問題点を改善すべく法務局での保管制度が創設されています。

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自筆証書遺言書の保管制度はいつから始まった?

法務局での自筆証書遺言書の保管制度は、令和2年(2020年)7月10日から施行されています。

なお、施行日以前に作成された遺言書であっても、保管要件を満たしたものであれば保管申請が可能です。

公正証書遺言と比較した自筆証書遺言のデメリット

自筆証書遺言は、費用がかからず手軽に作成できる点がメリットです。

しかし、公証人の関与のもとで作成する公正証書遺言と比較した場合、従来の自筆証書遺言書には次のデメリットがありました。
ここでは、法務局での保管制度を利用しなかった場合における、自筆証書遺言書の主なデメリットについて解説していきましょう。

無効になるリスクがある

自筆証書遺言書は、他者の関与なく作成することが少なくありません。
そのため、要件不備などにより無効になるリスクがあります。

一方、公正証書遺言は公証人が関与して作成するため、要件不備で無効となるリスクはほとんどありません。

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偽造や隠匿のリスクがある

自筆証書遺言書は、作成後、自宅などで保管することが一般的でした。
そのため、偽造や隠匿のリスクが少なからずあります。

一方、公正証書遺言は原本が公証役場で保管されるため、偽造や隠匿のリスクはありません。

トラブルの原因となりやすい

自筆証書遺言書は他者の関与なく作成されることが多いですが、遺言者の死後、トラブルの原因となることが少なくありません。
トラブルの内容としては、本当に本人が書いたものであるのかと疑義が生じるケースや、内容があいまいで相続の手続きができないケースなど、さまざまなものがあります。

一方、公正証書遺言は公証人が文案を作成するためあいまいな内容となるリスクは低く、また厳格な本人確認がされるため、本人以外が作成することはできません。

遺言書を見つけてもらえないリスクがある

自筆証書遺言書は自宅などで保管することが多く、しっかりとしまい込んだ結果、相続が起きても見つけてもらえないリスクがあります。
亡くなって何年も経ってから遺言書が発見された場合などには、家族を混乱させてしまうでしょう。

一方で、公正証書遺言は遺言者の死亡後に相続人などが公証役場へ出向くことで、作成の有無を調べることが可能です。

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相続開始後に検認が必要である

自筆証書遺言書は、相続が起きた後で検認を受けなければなりません。
検認とは、以後の遺言書の偽造や変造を防ぐため、家庭裁判所で行う手続きです。

一方、公正証書遺言は検認が必要ありません。

遺言書保管制度を利用するメリット

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自筆証書遺言書の保管制度がスタートしていますが、保管制度を使うかどうかは自由です。
作成した自筆証書遺言書を法務局に預け入れず、従来どおり自宅などで保管しても構いません。

しかし、保管制度を利用することで、先ほど紹介したデメリットを大きく減じることが可能となります。
具体的には次のとおりです。

形式不備による無効を予防できる

保管制度を利用する際には、保管先となる法務局で形式面のチェックがなされます。
たとえば、「自書ではなくワープロ打ちである」や「日付が吉日表記である」など基本的な要件に不備があれば、保管申請時に指摘されることでしょう。

そのため、無効である遺言書を遺してしまうリスクは低減されます。

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遺言書の偽造や隠匿を予防できる

保管制度を利用した場合、自筆証書遺言書の原本が法務局で保管されます。
そのため、遺言書が偽造されたり隠匿されたりするリスクから解放されます。

本人が保管申請をした証拠が残る

自筆証書遺言書の保管申請は、必ず本人が法務局へ出向かなければなりません。

そのため、「遺言書の作成者が本当に本人である」ことの担保まではできないまでも、少なくとも「本人が保管申請をした」という事実は担保されます。

遺言書を見つけてもらえないリスクを減らせる

遺言書の保管制度を利用した場合には、遺言書を見つけてもらえないリスクを減らすことが可能となります。

遺言者の死後に相続人などが法務局で所定の手続きをすることで、遺言書の有無を調べることができるためです。

検認が不要となる

法務局での保管制度を利用した自筆証書遺言書は、例外的に検認が不要とされます。

法務局で遺言書の原本が保管されている以上、偽造や変造をすることはできないためです。

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【保管申請時】自筆証書遺言書保管制度を利用する流れ

保管制度を利用する際、遺言者側が行う手続きの流れは、次のとおりです。※1

自筆証書遺言を作成する

はじめに、要件に沿った自筆証書遺言書を作成します。

自筆証書遺言書の法律上の要件(968条)は、次のとおりです。

  1. 遺言者が全文を自書すること(別紙で財産目録を添付する場合には、財産目録は自書不要。ただし財産目録はすべてのページに署名捺印が必要)
  2. 遺言者が日付と氏名を自書すること
  3. 遺言者が押印すること

ただし、法務局での保管制度を利用する際には、この通常の要件に加えて次の要件も満たさなければなりません。※2

  1. 次の用紙で作成すること
    • サイズ:A4サイズ
    • 模様等:記載した文字が読みづらくなるような模様や彩色がないもの
    • 余白:最低限次の余白を確保すること。上部5ミリメートル、下部10ミリメートル、左20ミリメートル、右5ミリメートル(一文字でもはみ出していれば保管不可)
  2. 用紙の片面のみに記載すること
  3. 各ページに、総ページ数とページ番号を記載すること(「1/2」「2/2」など)
  4. 複数ページにわたる場合でもホチキスなどで綴じないこと
  5. 消えるインクなどは使用せず、ボールペンや万年筆などの消えにくい筆記具を使用すること
  6. 遺言者の氏名は戸籍どおり(外国籍の方は公的書類記載のとおり)に記載すること。ペンネームはいくら周知のものであっても不可

これらの要件を満たしていなければ保管を受け付けてもらえないため注意が必要です。

また、法務局では、遺言書の作成指導や内容についてのアドバイスなどを受けることはできません。
これらが必要な場合には、あらかじめ弁護士などの専門家へご相談ください。

保管申請先の法務局を決める

遺言書の作成ができたら、遺言書を保管してもらう法務局(遺言書保管所)を決めます。
保管先とすることのできる法務局は、次のいずれかです。

  1. 遺言者の住所地を管轄する遺言書保管所
  2. 遺言者の本籍地を管轄する遺言書保管所
  3. 遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所

法務局の管轄は、法務省のホームページから確認できます。

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保管申請書を作成する

保管申請をする際には、遺言書とともに保管申請書を提出しなければなりません。

保管申請書の様式は法務省のホームページか最寄りの法務局で入手できます。
記載欄が多いうえ正確な表記が必要となるため、保管申請時に窓口で書くのではなく、あらかじめ作成しておきましょう。

保管申請に出向く

遺言書と保管申請書の準備ができたら、遺言者本人が保管申請に出向きます。
保管申請は予約制となっていますので、必ず予約をしてから出向くようにしましょう。
また、本人以外が代理で出向くことはできません。

保管申請に必要な書類は、原則として次のとおりです。
すべて忘れずに持っていきましょう。

  • 遺言書:上で紹介した要件に沿って作成します
  • 保管申請書:あらかじめ作成して持参します
  • 3か月以内に取得した住民票の写し(本籍と筆頭者の記載があり、マイナンバーや住民票コードの記載のないもの)
  • 顔写真付きの身分証明書(運転免許証、マイナンバーカードなど)

この他に、保管申請する遺言書1通あたり、3,900円の手数料が必要です。
手数料は収入印紙で納めますが、収入印紙は法務局で購入することができます。

保管申請が受け付けられると、遺言者の氏名や遺言書保管番号などが記載された「保管証」が発行されるので、大切に保管しましょう。

なお、必要書類の中に、不動産の全部事項証明書(登記簿謄本)や預貯金通帳など財産についての書類や、遺産をわたす相手の住民票などはありません。
つまり、これらの誤記は法務局が関与するところではなく、仮に書き損じており手続きができなかったとしても自己責任であるということです。

法務局での遺言書保管制度を使ったことは遺言書に問題がないというお墨付きではありませんので、誤解のないようご注意ください。

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【相続発生時】相続人側の手続き

遺言書の保管制度を利用した後、遺言者が亡くなった場合における遺族側の手続きは、次のとおりです。※3

なお、これらの手続きを行うことができるのは遺言者が亡くなってからであり、遺言者の生前には行うことができません。

遺言書保管事実証明書の交付請求をする

亡くなった人が法務局に遺言書を預け入れていたかどうかが分からない場合には、まず最寄りの法務局で「遺言書保管事実証明書」の交付請求を行います。
この手続きができるのは、遺言者の相続人や受遺者、遺言執行者などのみです。

これにより、その亡くなった人の遺言書が法務局に保管されているかどうかがわかります。
手数料は、証明書1通あたり800円です。

遺言書情報証明書の交付請求をする

亡くなった人が遺言書の保管制度を利用していることがわかったら、次に「遺言書情報証明書」の交付請求を行います。

この証明書には遺言書の画像情報が全て掲載されており、遺言書の内容を確認することができます。

手数料は、証明書1通あたり1,400円です。

全ての相続人に遺言書が保管されていることが通知される

相続人や受遺者のうち誰か1人でも遺言書情報証明書の交付を受けると、法務局からその他の相続人などに対して、遺言書を保管している旨の通知がなされます。

これを受けて遺言書情報証明書の交付請求をすることで、他の相続人も遺言書内容を知ることとなります。

遺言書を執行する

遺言書情報証明書の交付を受けたら、これを使って遺言の執行を行います。
執行すべき事項は遺言書の内容によって異なるものの、たとえば不動産の名義変更や、預貯金の解約換金などです。

自分で手続きをすることが難しい場合などには、手続きの進め方などについて専門家へ相談するとよいでしょう。

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自筆証書遺言書の保管制度利用時の注意点

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保管制度を利用する際には、次の2点に注意しましょう。

法務局は遺言書の作成支援はしない

法務局への保管申請時に、たとえば「押印がされているか」、「日付が書かれているか」などの形式面のチェックはしてもらえます。
しかし、法務局では、遺言の内容に関するアドバイスを受けることはできません。

いくら形式面が整っていても、将来に問題を残してしまう遺言書は数多く存在します。
たとえば、遺留分(子や配偶者など一部の相続人に保証されている、相続での最低限の取り分)を侵害してしまい、相続開始後にトラブルとなるものなどです。

法務局の役割はあくまでも遺言書を保管してくれるのみであると理解したうえで、遺言書の書き方が知りたい場合や遺言書の内容を相談したい場合などには、弁護士などの専門家へ相談しましょう。

代理や出張での保管申請は不可

自筆証書遺言書を法務局で保管してもらうための申請は、遺言者本人が保管申請先の法務局まで出向くことが必要です。

これに例外はなく、たとえば弁護士などの専門家や配偶者などのご家族であっても、代理で申請することはできません。
また、法務局の担当者が入院先の病院や施設まで出張してくれる制度もありません。

そのため、病気やけがなど何らかの事情で法務局まで出向くことができない人は、この制度の利用ができないことを知っておきましょう。

一方、公正証書遺言の作成に当たっては、公証人の出張を受けることが可能な場合があります。
そのため、病気等でどうしても外出が難しい場合には、公正証書遺言を作成することも検討するとよいでしょう。

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まとめ

自筆証書遺言書の保管制度を利用することで、従来の自筆証書遺言書のデメリットを大きく減じることが可能となります。
そのため、自筆証書遺言書を作成する際には、保管制度の利用を前向きに検討するとよいでしょう。

しかし、保管制度を利用したからといって、法務局が遺言書の内容まで踏み込んだアドバイスをしてくれるわけではありません。
将来に問題を残さない遺言書を作成したい場合には、弁護士の助言を受けながら遺言書を作成することをおすすめします。

Authense法律事務所では相続トラブルの解決や遺言書の作成支援などに力を入れており、これまでも多くのサポートを行ってまいりました。
遺言書保管制度の利用についてもっと知りたい場合や、実際に利用をご検討される際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。

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記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(大阪弁護士会)
同志社大学法学部法律学科卒業、立命館大学法科大学院修了。離婚、相続問題を中心に、一般民事から企業法務まで幅広い分野を取り扱う。なかでも遺産分割協議や遺言書作成などの相続案件を得意とする。
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