ITの浸透・進化が激しい現代において、今後の競争を勝ち抜くためには、DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組み始めることが必要です。そのためには、DXにかかわる優遇税制をうまく利用することが求められます。
本記事では、主にベンチャー企業を念頭に置いて、DXにかかわる優遇税制の概要について説明します。
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DX投資促進税制とは
ウィズ・ポストコロナ時代を見据え、デジタル技術を活用した企業変革(デジタルトランスフォーメーション)を実現するためには、経営戦略・デジタル戦略の一体的な実施が不可欠です。
そこで、令和3年税制の改正の中で、DX投資促進税制の新設が発表されました。DX投資促進税制は、部門・拠点ごとではない全社レベルのDXに向けた計画を主務大臣が認定した上で、DXの実現に必要なクラウド技術を活用したデジタル関連投資に対し、税額控除(5%/3%)または特別償却30%を措置するものです。
DX投資促進税制の適用を受けるためには、青色申告書を提出する法人であることが前提条件となり、加えて、産業競争力強化法の「事業適応計画」(仮称)について同法の認定を受ける必要があります。そして、その事業適応計画に従って実施される産業競争力強化法の「事業適応」(仮称)の用に供するためにソフトウェアの新設・増設をするか、またはその事業適応を実施するために必要なソフトウェアの利用にかかる費用(繰延資産となるものに限る。)の支出をした場合、税額控除または特別償却の税制優遇措置を受けることができます。
具体的な認定要件として、デジタル(D)要件と、企業変革(X)要件が設けられています。デジタル要件としては、①データ連携・共有、②クラウド技術の活用、③情報処理推進機構が審査する「DX認定」の取得が要求され、企業変革要件としては、①全社の意思決定に基づくものであること、②一定以上の生産性向上などが見込まれていることなどが要求されています。※2
DX投資促進税制の適用期限は、令和5年3月末です。
オープンイノベーション促進税制とは
株式会社などまたはそのCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)が、スタートアップ企業とのオープンイノベーションに向け、そのスタートアップ企業の新規発行株式を一定額以上取得する場合、その株式の取得価額の25%が所得控除される制度です。※3
本税制でいう「オープンイノベーション」とは、対象法人がスタートアップ企業の革新的な経営資源を活用して、高い生産性が見込まれる事業や新たな事業の開拓を目指す事業活動をいいます。具体的には、以下の3点を満たすことが必要です。
- ① 対象法人が、高い生産性が見込まれる事業または新たな事業の開拓を目指した事業活動を行うこと
- ② ①の事業活動において活用するスタートアップ企業の経営資源が、対象法人にとって不足するもの、かつ革新的なものであること
- ③ ①の事業活動の実施にあたり、対象法人からスタートアップ企業にも必要な協力を行い、その協力がスタートアップ企業の成長に貢献するものであること
本税制の対象法人も、青色申告書を提出する法人であることが前提となり、かつ、スタートアップ企業とのオープンイノベーションを目指す法人であること、株式会社など(株式会社、相互会社、中小企業など協同組合、農林中央金庫、信用金庫及び信用金庫連合会)であることが求められます。
また、この対象法人が主体となるCVCを経由して出資する一定の場合も対象となります。
スタートアップ企業(受け手側)の要件としては、以下の①から⑨の要件を満たすことが求められます。
- ① 株式会社
- ② 設立10年未満
- ③ 未上場・未登録
- ④ 既に事業を開始している
- ⑤ 対象法人とのオープンイノベーションを行っているまたは行う予定
- ⑥ 一つの法人グループが株式の過半数を有していない
- ⑦ 法人以外の者(LPS、民法上の組合、個人など)が3分の1超の株式を有している
- ⑧ 風俗営業または性風俗関連特殊営業を営む会社でない
- ⑨ 暴力団員などが役員または事業活動を支配する会社でない
本税制では、オープンイノベーションに向けて、5年以上の株式の継続保有を見込んで、一定額以上の現金の払込みによりスタートアップ企業の新規発行株式を取得する行為が対象となります。
本税制は、令和2年4月1日から令和4年3月31日の間に行った出資が対象となります。
テレワークなどのための中小企業の設備投資税制とは
中小企業によるテレワークなどへの投資を促進するため、令和2年度税制改正により、中小企業経営強化税制に新たな類型として「デジタル化投資」が追加されました。※4
本税制は、取得した一定規模の設備について、即時償却または設備投資額の7%(資本金の額が3,000万円以下の法人などは10%)の税額控除をすることができる制度です。
本税制の対象法人も、青色申告書を提出する中小企業者などであることが前提条件となります。
加えて、本税制の適用を受けるためには、中小企業など経営強化法に基づき、経営力向上計画について経済産業大臣の認定を受け、当該計画に基づき、遠隔操作、可視化、自動制御化のいずれかに該当する一定の規模の設備を取得などする必要があります。※5
「遠隔操作」とは、以下の2つの要件を満たす設備をいいます。
- 1)デジタル技術を用いて、遠隔操作をすること
- 2)以下のAまたはBいずれかを目的とすること
A)事業を非対面で行うことができるようにすること
B)事業に従事する者が、通常行っている業務を、通常出勤している場所以外の場所で行うことができるようにすること
「可視化」とは、以下の3つの要件を満たす設備をいいます。
- 1)データの集約・分析を、デジタル技術を用いて行うこと
- 2)1)のデータが、現在行っている事業や事業プロセスに関係するものであること
- 3)1)により事業プロセスに関する最新の状況を把握し経営資源などの最適化(設備、技術、個人の有する知識及び技能などを含む事業活動に活用される資源などの最適な配分などをいいます。)を行うことができるようにすること
「自動制御化」とは、以下の2つの要件を満たす設備をいいます。
- 1)デジタル技術を用いて、状況に応じて自動的に指令を行うことができるようにすること
- 2)1)の指令が、現在行っている事業プロセスに関する経営資源などを最適化するためのものであること
本税制の適用期限は、令和3年3月31日です。
まとめ
ITの浸透・進化が激しい現代において、今後の競争に勝ち抜くためには、デジタルトランスフォーメーションに取り組み始めることが必要です。そのためには、DXにかかわる優遇税制をうまく利用することが求められます。本記事では税制の内容については概要を紹介するに留まりますが、優遇税制が適用されるのか否か、お悩みの際には速やかに専門家にご相談されることをお勧めいたします。
【参考文献】