コラム

2020.11.18

遺産の一部分割は可能?遺産分割協議書の書式とひな形

遺産の一部だけを分割したい場合、書式はどのようにしたら良いでしょうか?遺産分割協議は法律上書面の作成は要求されていませんが、どのような合意が成立したか書面で明らかにし後日の紛争を防止するため作成することが一般的です。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(大阪弁護士会)
同志社大学法学部法律学科卒業、立命館大学法科大学院修了。離婚、相続問題を中心に、一般民事から企業法務まで幅広い分野を取り扱う。なかでも遺産分割協議や遺言書作成などの相続案件を得意とする。

遺産を一部のみ分割することはできる?

遺産の分割は、遺産のすべてを一回で分割することが通常です。これを遺産の「全部分割」と呼びます。これに対し、遺産のうち一部のみを分割し、残りは未分割のままの状態にしておくこともできます。これを遺産の「一部分割」と呼び、相続人全員の合意があれば可能です。「全部分割」が通常ですが、実際には「一部分割」はよく行われています。

よくあるケースとして、遺産の種類が多い場合、相続人が多く長期の話し合いが予想される場合や、遺産の範囲を確認する訴訟が起こっていて確定に時間がかかる場合などにおいては、先に一部分割が実施されることがあります。この他、相続税の納付のために必要な財産(預貯金等)だけを先に分割したいというようなケースもあります。

遺産分割協議と遺産分割協議書

相続が発生して被相続人が遺言書を遺さずに死亡した場合には、各相続人には民法所定の法定相続分が発生します。また、法定相続人の全員一致で協議が成立すれば、各相続人が法定相続分とは異なる割合で遺産を相続することができます。

ただし、生前被相続人が適式な遺言書を遺していた場合には、遺言書が最優先します(民法907条1項)。

遺産分割協議では、誰に何をどのように分けるのかについて話し合います。遺産分割協議は、相続人全員が出席して話し合いをする方法や、あらかじめ書類による分割案を作成し各相続人に郵送などで送り、内容を検討して全員の合意を取る方法などがあります。

遺産分割協議を行う当事者は、法定相続人のほかにも代襲相続人や法定代理人、包括受遺者が考えられます。そして、遺産分割は、一人でも不参加者がいると協議が成立しません。また、相続人に行方不明者がいるような場合は不在者財産管理人を立てる必要がありますし、未成年者がいる場合は法定代理人が必要です。

遺産分割協議がまとまったら、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書の作成は義務ではありませんが、相続税の申告や相続財産の名義変更のためなどに必要です。

ちなみに、相続税の申告期限は相続開始後10ヶ月以内なので、それ以前に遺産分割協議を終わらせて、遺産分割協議書を作成しておくことが一般的です。

一部分割するメリット&デメリット

遺産分割は遺産のすべてを1回で分割する全部分割が通常です。
もっとも、相続人全員で合意すれば、分割を1回にするのか、複数回にするか自由に決定できます。

一部分割を行うメリット

例えば、遺産が複数の不動産だったり、品目が多岐に渡ったりする場合や、相続人が多数いる場合などに、全部の遺産について一度に分割しようとすると、協議が長期化することが予想されます。そのため、話し合いがまとまりそうな一部の財産だけを先に分割したり、相続税の納付のために現金化しやすい遺産を必要なだけ先に分割したりすることで、段階的に協議を進めていくことができるということが、一部分割を行うメリットです。

預貯金を先に分割して相続税の支払いに充てる

預貯金を法定相続分で分割すれば、相続人間で不満が生じる可能性が低いため、先に分割することで相続税の支払いに充てることができます。

不動産を先に売却して相続税の支払いに充てる

不動産は特定の相続人が居住していてそのまま居住継続する不動産でなければ、分割することが困難な遺産であり売却することが予想されます。早期に売却が見込める不動産であれば、先に不動産のみ一部分割(売却)して相続税の支払いに充てたり、各相続人への配分額を調整できたりするメリットがあります。

分割が容易な遺産を先に分割し、分割が困難な遺産を後でじっくりと検討する

事業用不動産や骨董品などの遺産は、誰が相続するのかでもめたりすることが少なくありません。このような場合に、分割が容易な遺産について一部分割を行うことで、分割が困難な遺産を後でじっくりと検討できるメリットがあります。現金や早く換金できる遺産を一部分割して生活費に充てたり、相続税の支払いに充てたりすることが可能です。

デメリット

一部分割は、将来的に、分割しなかった遺産を分割しなければならないため、遺産分割問題の根本的解決になりません。すなわち、解決すべき問題を先送りにすることになります。残りの遺産の分割の際に、先に行われた一部分割をどのように反映させるべきかという新たな問題が発生する可能性もあります。また、残りの遺産分割で訴訟が起きた場合、先の一部分割が無効になる可能性もないわけではありません。

預貯金を先に一部分割するデメリット

相続税の支払いや、2次相続が発生することも考慮して預貯金(現金)を一部分割する必要がありあます。新たに不動産などの遺産が見つかった場合、相続税の支払いに現金が必要になるケースもあります。現金は相続すると使ってしまう相続人も多いため注意する必要があります。

不動産を先に一部分割するデメリット

配偶者や相続人が当該不動産に居住している場合、一部分割して売却する場合には、当該不動産に居住できなくなることが最大のデメリットです。

また、被相続人が長期間所有していることも少なくなく、その場合は取得費が不明であることが多いです。その場合、取得費として売却金額の5%相当額しか控除できず、多額の譲渡所得税が発生するケースも多いのです。配偶者が居住する不動産を一部分割(売却)するには、下記の配偶者居住権を考慮する必要があります。

※配偶者居住権配偶者居住権は、生存配偶者に住み慣れた住居を確保するために新民法によって創設された制度です。相続開始のとき、配偶者居住権は被相続人の住居(居住建物)に居住していた配偶者に、原則として終身その住居に無償で生活できる権利を確保する制度です(新民1028)。この権利は、一定要件の下、遺産分割での合意、被相続人の遺言、死因贈与契約、家庭裁判所の審判によって取得することができます(新民1028・1029)。

一部分割が不要なケース

金融機関への預貯金の一部払戻請求

各相続人は、遺産分割前に直接金融機関に対して、相続財産である預貯金の3分の1にその相続人の法定相続分を乗じた額の払戻しを求めることができます(新民909の2前段)。
この制度により払戻しを受けた相続人は、払戻しを受けた分について、遺産の一部の分割により遺産を取得したとみなされますので、相続人全員の合意は不要です(新民909の2後段)。

一部分割する際の遺産分割協議書の書式

相続税の支払いのため、不動産を先に一部分割するときの遺産分割協議書のひな型を例に取って解説しましょう。

遺産分割に関する一部協議書(ひな型)

書き方

冒頭に被相続人の氏名と死亡日、本籍地、相続人全員の氏名などを明記します。

  • 1:分割を行う不動産の所在地、地番、地目、地積を明記します。また、不動産を共有で相続する場合には、相続人全員の氏名と共有持分を明記します。
  • 2:該当不動産を売却して、売却代金を相続税支払いに充てること、相続税支払後の残余代金は、前項の割合にしたがって取得することを明記します。
  • 3:一部分割の理由を明記します。相続人全員は、第1項および前項の措置は、相続税を支払うための便宜的な措置であることを相互に確認することを明記します。
  • 4:該当不動産以外の残余の相続財産の取り扱いに関して明記します。

※遺産分割協議の日付、相続人全員の氏名と住所、実印で押捺します。相続人全員の印鑑登録証明書を添付します。

注意すべき点

不動産を相続する場合、不動産の表示は登記済証や登記簿謄本で確認してから記入しましょう。相続登記手続きや売却後登記の必要があるため、正確に記載する必要があるからです。

また、不動産の所有権を相続人に移転する場合、所有権移転登記申請の際に、この遺産分割協議書が原因証書や相続証明書として重要な役割を果たします。相続税申告の際、一部分割や法定相続分と異なる遺産分割をした場合は、この遺産分割協議書がその証明書類として重要な役割を果たします。

遺産分割協議書作成上の一般的な注意点

相続人全員が各自署名し、実印を押して、遺産分割協議書の末尾に印鑑証明書を添付します。氏名と住所は印鑑証明書に記載されている通りに記載します。

また、不動産は、登記簿謄本を確認しながら正確に記入する必要があります。

また、現在は判明していない遺産が後日見つかる場合に備えて、残余の遺産を誰が相続するかなども決めておくことも必要です。

遺産分割協議書は1枚の用紙では足りず複数枚になった場合には、必ず相続人全員が各用紙の間に契印を押さなければなりません。文字の加除変更についても、欄外に同様に相続人全員が捨印を押して、その項の何行目の何字を加入・削除したか明記しておきます。

まとめ

遺産分割協議は全部分割が通常です。現状ではさまざまな理由により一部分割はよく行われています。

しかし、残余の遺産について再度の遺産分割協議が必要で、デメリットもあるため、一部分割を行うか否かは慎重に判断すべきです。

もしも、相続人間で一部分割を検討する場合は、弁護士に相談することをおすすめします。

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