利用規約への同意条件や利用規約変更時の注意点などについて弁護士がわかりやすく解説します。
利用規約に同意したものとみなすためには、ウェブサイトの同意画面をどのような設計とすればよいのでしょうか?
目次
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利用規約とは
利用規約とは、一般に、事業者が提供するサービスの利用ルールを定めたものです。
サービス利用者がサービスの申し込みに際して利用規約を閲覧して同意することで、その利用規約の条項が事業者と利用者との契約内容として成立します。
利用規約がなければ、ユーザーが他のユーザーに明らかに迷惑をかけるなどトラブルが発生した際に、サービス提供者側から対応することが難しくなってしまうでしょう。
そのため、不特定多数の相手にサービスを提供する場合には、利用規約は必須であるといえます。
契約書との違い
一般的に、契約書はサービス提供者である事業者とそのサービス利用者である顧客など、契約の当事者同士が個別で締結するものです。
そのため、契約の内容は個別事情によって様々であり、事業者側が契約書のドラフトを作成して提示した後に、顧客側の申し入れにより内容を変更する場合があります。
一方で、利用規約はサービス提供者である事業者が作成し、不特定多数のサービス利用者との間で画一的な内容で締結するものです。
そのため、原則としてサービス利用者側に交渉の余地はありません。
つまり、実質的にサービス利用者が持つ選択肢は、その利用規約を受け入れてサービスを利用するか、そのサービスの利用自体を見送るかの2択になるでしょう。
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適切な同意画面の重要性
利用規約をせっかく定めていても、ウェブサイトの設計に問題があれば、利用規約を契約内容とする旨の同意をしていないと判断されるリスクがあります。
利用規約を契約内容とするためには、次の条件を満たす設計を行うことが望ましいでしょう。
- 申し込みに際して、利用規約が必ず表示されるようにする
- 利用規約を最後の条項まですべてスクロールしなければ、申し込みボタンが押せない設計とする
- 「利用規約をすべて読み、同意します」などとしたチェックボックスにチェックを入れないと申し込みページに進めないようにする
- 利用規約は読みやすい字体かつ見やすい大きさのフォントで記載する
「みなし同意」はリスク有り
「みなし同意」とは、「本サービスを利用しているユーザーは、利用規約に同意したものとみなします」「特段の申出がない限り、利用規約の内容に同意したものとみなします」などの条項を、利用規約中に記載するものです。
しかし、このような「みなし同意」は、できれば避けた方がよいでしょう。
なぜなら、このみなし同意は、改正民法で規定された定型約款(利用規約)として契約内容とみなされるための条件を満たさないと考えられるからです。
そのため、いざユーザーとトラブルになった際に、利用規約への同意を否定されるリスクが高くなります。
改正民法における定型約款が契約内容となるための条件
改正民法下においては、定型取引を行うことの合意をした者が、さらに定型約款に含まれる個別の契約条項を当事者が合意したものとみなすためには、次の2つの要件のいずれかを満たす必要があるとされています。※1
- 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたこと
- 定型約款準備者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたこと
そのため、これらに照らせば、例に挙げたような「みなし同意」は上記の要件を満たさず、同意をしたものとみなされないリスクが高いでしょう。
利用規約に同意がなかった場合のトラブル
利用規約に同意がないとされた場合には、次のトラブルが生じる可能性があります。
利用料金不払いへの対応が困難になる
有料サービスにおいて利用規約の同意がなかったとされた場合には、仮に料金の不払いが生じた際、利用料金の請求が事実上困難となるおそれがあります。
ユーザーによる規約違反の投稿を削除できない
投稿型のサービスにおいて利用規約の同意がなかったとされた場合には、仮にユーザーが他のユーザーへの誹謗中傷や個人情報の投稿など規約違反の投稿を行っていたとしても、投稿の削除が困難となるおそれがあります。
免責事項が適用されず多額の損害賠償を請求されるリスクがある
利用規約で事業者の免責事項を定めていたにもかかわらず、利用規約への同意がなかったとされた場合には、免責条項が適用されず、多額の損害賠償請求を請求されるおそれがあります。
民法改正により、契約内容として合意をしなかったとみなされるケース
利用規約は事業者がサービス提供を開始するにあたって必須といえますが、必ずしも事業者にとって有利な内容で自由に作成できるわけではありません。
特に、事業者が消費者に対して提供するサービスであれば、消費者契約法に基づき利用規約全部又は個別条項が無効とされるリスクがあるため注意が必要です。また、不当条項に該当する場合には、契約内容として組み入れが否定される場合があります。
不当条項規制
民法第548条の2第2項の規定により、取引の態様や社会通念などに照らして相手方の利益を一方的に害すると認められる個別条項については、契約内容とする合意をしなかったものとみなされます。
つまり、次のような条項は、いくら利用規約に定めても当該条項を契約内容として組み入れることが否定されます。
- 相手方の権利を制限し、相手方の利益を一方的に害すると認められる条項
- 相手方の義務を加重し、相手方の利益を一方的に害すると認められる条項
不当条項の具体例
不当条項規制において、何が不当条項にあたるかは、①当該条項の内容面の不当性と②当該条項を相手方が認識又は予測困難であったという不当性の側面から総合的に考慮して判断されます。
たとえば、相手方に対して中途解約の場合には過大な違約罰を設けたり、事業者側の故意による損害賠償責任を免除するなどの条項は不当条項であるとして組み入れが否定される可能性が高いといえます。
日本の裁判例
利用規約や約款に関する近時の事例として、次のようなものがあります。主として、事業者と適格消費者団体との間で消費者契約法の適用が問題となった事例です。
利用規約が明確性を欠くとされた事例
株式会社ディー・エヌ・エーが運営するゲームサイト「モバゲー」において、その利用規約に「他の会員に不当に迷惑をかけたと当社が合理的に判断した場合」「会員として不適切であると当社が合理的に判断した場合」「当社の措置により会員に損害が生じても当社は一切損害を賠償しない」旨を定めており、これらの利用規約条項が不当であるとして適格消費者団体が差し止めを求めて提訴した事例です。※2※3
東京高裁令和2年11月5日判決は、「「合理的に判断した」の意味内容は極めて不明確であり、「合理的な」判断をした結果会員資格取消措置等を行ったつもりでいても、客観的には当該措置等が債務不履行又は不法行為を構成することは十分にあり得るところであり、そのような場合であっても、本件規約7条3項により損害賠償義務が全部免除されると主張し得る」として、「一切損害を賠償しない」との条項は、消費者契約法第8条第1項第1号前段及び同項第3号前段に該当すると判示し、差し止めを認めました。
携帯電話利用契約における約款変更条項の有効性が争われた事例
携帯電話利用契約において、約款内に携帯電話事業者が「当社は、この約款を変更することがあります。この場合には、料金その他の提供条件は、変更後の約款によります」と定めていました。※4
この条項が不当であるとして適格消費者団体が提訴しましたが、結果的に「消費者の利益を一方的に害する条項」(消費者契約法10条前段)には該当しないと判示されました。
ただし、本件では不特定多数の相手方に対して均一に提供することを目的とするサービスの特殊性が考慮されたものであり、一般的にこのような条項に問題がないと示されたわけではない点に注意が必要です。
利用規約を変更・改定するときのポイント
利用規約を変更したり改定したりする際には、次の点に注意しましょう。
不当条項ではないか確認する
新たな利用規約のなかに、不当や不意打ち的な条項が含まれていないかよく確認しましょう。
先ほど解説したように、ユーザーにとって不利益となる条項や不意打ち的な条項は、契約への組み入れが否定されます。
一般原則として既存ユーザーの個別同意が必要であることを知っておく
利用規約の変更には、民法の一般原則に従えば既存ユーザーの個別での同意が必要となります。もっとも、不特定多数のユーザーに対し、継続的にサービスを提供する以上、利用規約の内容を変更する必要性が生じる場合があるかと思います。
その際には、以下の要件のいずれかに該当する場合には、ユーザーの個別的な同意を必要とすることなく、利用規約(定型約款)を変更することができます。
- 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき
- 定型約款の変更が、変更に係る事情などに照らして合理的なものであるとき
各法令を遵守する
利用規約を変更する際には、新たに策定する場合と同様に、各法令を遵守する内容で作成しましょう。
変更内容が明らかに違法ではなくとも、ユーザーにとって不利益な内容が付加された場合には、既存ユーザーの反発を招き、内容によってはSNSなどで炎上してしまい、ひいてはサービスの価値が低下するリスクが高くなることから注意が必要です。
利用規約変更の手順
現在使用している利用規約を変更する場合は、次のような手順を取りましょう。
ステップ1:変更後の利用規約のたたき台を作成する
はじめに、変更後に使用する予定の新たな利用規約のたたき台を作成します。
利用規約の変更とあわせてウェブページの改訂も検討している場合には、ユーザーへの表示方法についても検討しておきましょう。
ステップ2:弁護士にチェックしてもらう
利用規約の作成には民法や消費者契約法などさまざまな法的知識が不可欠であり、自社のみで作り上げることは容易ではありません。
また、他社の利用規約の「コピペ」では、自社の提供するサービスに適合せずトラブルが生じた際に対応できないことが想定されますし、他社独自の部分までそのままコピーしてしまうと著作権侵害が生じるおそれもあり、トラブルが起きた際に問題となる可能性が高いでしょう。
そのため、利用規約のたたき台を作成したら、弁護士にチェックしてもらうことをおすすめします。
併せて、ユーザーへの表示方法についても問題がないかどうか確認してもらうと良いでしょう。
ステップ3:ユーザーに変更内容を周知する
変更後の利用規約が完成したら、ユーザーに変更後の利用規約の内容と、変更後の利用規約がいつから適用されるのか周知します。
周知の方法としては、サービスを提供しているウェブサイト上で行う方法や、登録会員宛てに電子メールを送信する方法で周知することが一般的です。
ステップ4:HPに掲載する
周知期間が経過したら、新たな利用規約として運用を始めましょう。
まとめ
利用規約は、いざトラブルが発生した際の拠りどころとなるものであり、不特定多数のユーザーに向けてサービスを提供する事業者にとって不可欠なものです。
利用規約を作成しないままサービスを提供することはもってのほかですが、他社の利用規約をコピペしたまま何ら手を加えず、不安を抱えたまま事業を進めることはおすすめできません。
利用規約を作成する際には、弁護士へ相談するようにしましょう。
Authense法律事務所にはインターネットサービスに詳しい弁護士が多数在籍しており、利用規約の作成をサポートしております。
利用規約の作成や変更でお困りの際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。