コラム

公開 2021.09.21 更新 2024.03.25

資金決済法とは?法改正のポイントとフィンテックベンチャーの注意点

資金決済法とは?法改正のポイントとフィンテックベンチャーの注意点

ベンチャー企業がフィンテックビジネスを始める際、資金決済法を避けて通ることはできません。
この資金決済法が改正のうえ2021年5月に施行され、前払式支払手段の利用者保護が強化されたり資金移動業が類型化されたりしました。
資金決済法の内容や改正された事項などについてわかりやすく解説します。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(東京弁護士会)
東北大学法学部卒業。旧司法試験第59期。上場会社のインハウス経験を活かし、企業法務に関するアドバイス、法務部立ち上げや運営のコンサルティング、上場に向けたコンプライアンス体制構築や運営の支援等を行う。IT・情報関連法務、著作権など知的財産権法務、知的財産権を活用した企業運営・管理等のコンサルティングを行う。
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資金決済法とは

2021年5月に、改正資金決済法が施行されました。 資金決済法とは、決済サービスの利用者を保護しつつ決済サービスの適切な実施を確保するための法律です。

決済サービスを担っている企業が突然破綻をしてしまうと、利用者の資金が欠損してしまう懸念などが生じます。
そうした状況を防ぐため、資金決済法では一定の業務を行う事業者に一定のルールを課しているのです。

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資金決済法の規制対象

資金決済法の規制対象となるのは、次のような事業です。

  • 前払式支払手段
  • 資金移動業
  • 暗号資産交換業
  • 収納代行・代金引換等

前払式支払手段

前払式支払手段とは、事前入金制の決済方法です。

利用形態による分類

前払式決済手段はその利用形態から、次の3つに分類されます。※1

  • 商品券やカタログギフト券:デパートの商品券やビール券などです。
  • 磁気型やIC型のプリペイドカード:SuicaやPASMOなどの交通系ICカードやクオカードなどです。
  • ウェブ上で利用できるプリペイドカード:Amazonギフト券やApp Store & iTunes ギフトカードなどです。

発行母体の分類

前払式決済手段の発行母体は、次の2つに分類されます。

  • 自家型発行者:発行者の提供するサービスや物品購入の対価としてのみ利用できる前払式支払手段の発行者。例えば、スーパーマーケットAでのみ利用できるギフト券をスーパーマーケットAが発行するような場合です。
  • 第三者型発行者:自家型発行者以外の発行者。例えば、ショッピングモールの全店で利用できるギフト券を発行する場合や、スーパーマーケットAのフランチャイズ店を含む全店で利用できる商品券を発行するような場合です。

主な規制内容

前払式決済手段を提供する場合には、主に次の義務が課されます。

  • 届出義務:自家型発行者は、基準日の未使用残高が1,000万円を超えることとなったときは、内閣総理大臣へ届出をしなければなりません。
  • 登録義務:第三者型発行者は、あらかじめ内閣総理大臣の登録を受ける必要があります。
  • 情報提供義務:利用者に前払式支払手段の支払可能金額や利用期限、苦情受付の連絡先などの情報を提供する必要があります。
  • 供託義務:基準日未使用残高が1,000万円を超えるときは、当該基準日未使用残高の2分の1以上を供託しなければなりません。

資金移動業 資金移動業とは、銀行等以外の者が営む為替取引のことです。

具体的には、主に次の3つのパターンが存在します。※2

  • 営業店型:送金人が店舗Aで送金を依頼し、受取人が店舗Bでお金を受け取る形態です。
  • インターネット・モバイル型:送金人が資金移動業者のウェブページ上でアカウントを作って入金し、受取人が指定のアカウントでお金を受け取る形態です。
  • カード・証書型:カード型は送金人がアカウントに入金しカードを作成して渡航し、送金人または受取人が現地提携先のATMで通貨を引き出す形態、証書型は送金人が店舗Aで購入した証書を受取人に送付し、受取人が店舗Bで証書を提示しお金を受け取る形態です。

最近では、このうちインターネット・モバイル型が増加傾向です。
例えば、モバイル決済サービスのPayPayやLINE Payなどがこれに該当すると考えられます。

主な規制内容

資金移動業を営む際には、次のような義務が課されます。

  • 登録義務:資金移動業を営むには、あらかじめ内閣総理大臣の登録を受けなければなりません。
  • 供託義務:一定額を供託しなければなりません。
  • 利用者の保護を図るための措置:次のような義務を履行しなければなりません。
    • 利用者が、銀行等が行う為替取引と誤認することを防止する措置を講ずること
    • 為替取引に係る手数料その他の契約内容に関する情報を利用者に対し提供すること 等

暗号資産

暗号資産とは、従来「仮想通貨」と呼ばれていたものです。 平成29年4月1日以降に国内で暗号資産と法定通貨との交換サービスを行うには、暗号資産交換業の登録が必要となりました。※3

主な規制内容

暗号資産交換業を営む際には、次のような義務が課されます。

  • 登録義務:暗号資産交換業を営むには、あらかじめ内閣総理大臣の登録を受けなければなりません。
  • 情報の安全管理義務: 暗号資産交換業に係る情報の漏えい、滅失又は毀損の防止その他の当該情報の安全管理のために必要な措置を講じなければなりません。
  • 利用者の保護義務:暗号資産の性質に関する説明や手数料その他の暗号資産交換業に係る契約の内容についての情報の提供などを行わなければなりません。
  • 分別管理義務:暗号資産交換業の利用者の金銭や暗号資産を、自己の金銭や暗号資産と分別して管理しなければなりません。

2021年5月施行の改正資金決済法のポイント

2021年5月に、改正資金決済法が施行されています。
この改正のポイントは次のとおりです。

前払式支払手段の利用者保護が強化された

改正により、前払式支払手段の利用者保護が強化されました。※4

具体的には、利用者に対する情報提供や発行者が提供する仕組みの中で、未使用残高の移転が可能な前払式支払手段を発行する場合に、当該前払式支払手段の不適切な利用を防止するための適切な措置などが講じられています。

資金移動業が類型化された

改正により、これまで細分化されていなかった資金移動業が、次の3つに類型化されました。
このうち、従来の資金移動業は次のうち第二種資金移動業に相当します。

  • 第一種資金移動業者:送金額の上限なく為替取引を行うことが可能です。従来どおりの登録が必要になることに加え、業務実施計画を定めたうえで内閣総理大臣の認可を受ける必要もあります。
  • 第二種資金移動業者:100万円以下の為替取引を取り扱うことができます。従来の資金移動業はこれに相当します。
  • 第三種資金移動業者:5万円以下の少額の為替取引を取り扱うことができます。

これにより、資金移動業でこれまで認められていなかった多額の為替取引を行うことが可能となりました。
また、供託などのルールも類型ごとに異なる形で定められています。

収納代行が資金移動業の規制対象となることが明文化された

従来、いわゆる割り勘アプリなどの収納代行が資金決済法の対象となるか否かが問題となっていました。
改正により、割り勘アプリなどにおける収納代行が資金移動業の対象となることが明文化されています。

ベンチャー企業がフィンテックビジネス開始時に注意すべきポイント

フィンテックビジネスはまだまだ黎明期であり、今後も新たなサービスを展開するベンチャー企業がますます増えていくことでしょう。

では、ベンチャー企業がフィンテックビジネスを始める際、どのような点に注意すればよいでしょうか?

資金決済法の規制対象となるかどうかを確認する

フィンテックビジネスを始めようとする際には、行おうとしている業務が資金決済法の規制対象となるのか、その事業設計の段階でよく確認しておきましょう。

資金決済法の規制対象となれば、法令を遵守するためのコストや労力の負担は避けられません。
また、事業の内容によっては多額の供託も必要です。

資金決済法の対象となるか否かで事業の設計が異なってくることもあると考えられるため、あらかじめ弁護士へ相談することをおすすめします。

規制対象となる業務を行う場合には適切に届出や登録を行う

資金決済法の規制対象となる事業を行う場合は、必ず法令に定められた届出やと登録を行いましょう。

あえて言うまでもないことかもしれませんが、無届けや無登録の事業は罰則の対象となるだけでなく、顧客からの信頼も失いかねません。

資金決済法の主な義務を知っておく

資金決済法では、その行う事業の類型によりさまざまな義務が課されています。
本記事でも一部紹介したように、実際に業務を行う際には自社の業務内容に合わせてより具体的に遵守すべき義務を洗い出し、ビジネスの流れを設計する必要があるでしょう。

また、改正により義務が追加されたり強化されたりする場合もありますので、改正の動向には常に注意を払う必要があります。

まとめ

資金決済法は、フィンテックビジネスを行うにあたって無視できない法律です。
フィンテックビジネスを始める際には、資金決済法の対象となるか否かを確認し、その義務の内容をよく理解したりして行うようにしましょう。

とはいえ、資金決済法は言い回しも難しく、また施行令を参照すべき箇所も多く比較的難解な法律です。
制度を知らずに違反行為をしてしまうことのないよう、フィンテックビジネスを始める際には弁護士へご相談ください。

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