学習したデータから文章や画像などのコンテンツを生成するいわゆる「生成AI」は、急速な進化とともに広く普及するようになりました。
その一方で、AIが作った生成物に著作権は発生するのか、またどのような場合にAI生成物による著作権侵害が成立するかなど様々な論点があり、法的な議論もまだ十分とはいえません。
AI生成コンテンツにまつわる著作権の諸問題について、弁護士がくわしく解説します。
目次
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AI生成コンテンツの著作権
AIによる生成物に著作権が発生するか
機械(AI)が自動的に作った生成物について、基本的には著作物性が認められず、著作権は発生しません。
AI生成物に著作物性が認められるためには、AI生成物を生み出す過程において、人の思想や感情を創作的に表現した「創作意図」があること、創作過程において具体的な表現結果を得るための人による「創作的寄与」があることが必要です(新たな情報財検討委員会報告書-データ・人工知能(AI)の利活用促進による産業競争力強化の基盤となる知財システムの構築に向けて-36頁)。
AIが自動的に作った生成物なら、人が具体的な表現結果に創作的な関与をしておらず、著作物には該当しないので、著作権は認められないということになります。
たとえば、短い単語からなるプロンプトを入力してAIに出力させた生成物は、著作物とは認められないでしょう。
これに対し、プロンプトの長さや表現内容に工夫を加えて、AIによる生成に人が関与した場合には、その生成物の全部又は一部の関与について創作的寄与が認められ、著作物と認められる可能性があります。
では、人が、AIによって作品を生成するためのデータを選択してAIに与え、学習させた場合に、これらの行為が「創作的寄与」といえるのでしょうか。
この点について、新たな情報財検討委員会報告書-データ・人工知能(AI)の利活用促進による産業競争力強化の基盤となる知財システムの構築に向けて-37頁において、「選択を含めた何らかの関与があれば創作性は認められるとの指摘があった一方で、単にパラメータの設定を行うだけであれば創作的寄与とは言えないのではないかという指摘もあり……現時点で具体的な方向性を認めることは難しいと考えられる」としています。
AI生成物の著作権者は誰か
AIによる生成に人が関与し、その点に創作的寄与が認められるならば、出力された生成物は著作物であり、創作的寄与をした人が著作者ということになります。
創作的な表現の結果である著作物の著作権はその人に帰属することになります。
たとえば、ある程度の長さのプロンプトを打ち込んで画像を生成した場合、そのプロンプトを打ち込んだ人が著作権者となります。
AIが生成したコンテンツによる著作権侵害
ではここで、AI生成物による著作権侵害について考えてみましょう。
たとえば、多数の漫画を読み込ませて分析させたAIに人物の画像を生成させたところ、とある著名な漫画のキャラクターに似ている人物の画像が出力されたとします。
この場合、その漫画の著作権侵害(複製権、翻案権の侵害)となるでしょうか。
ここで問題となるのが、「依拠性」と「類似性」です。
「依拠性」とは、他人の著作物に接し、それを自己の作品の中に用いることをいい、「類似性」とは、原著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できることをいいます。
著作権侵害にあたるかどうかは、この依拠性および類似性の要件に該当するかどうかで判断されます。
しかし、上記のようなAI出力のケースでは、この依拠性と類似性の要件を満たすかについて様々な見解があります。
一例として、AIが学習したデータの中に、生成された画像と似ている著作物が含まれているだけでは依拠性の要件に該当しないとする見解があります。
AIで生成された画像は、問題となっている当該著作物のアイデアを利用しているに過ぎないという見解です。
他方で、AIが学習したデータの中に、当該著作物が含まれていることをもって依拠性を認める見解もあります。
AIの学習済みモデル内に当該著作物の具体的な表現が残っているのであれば、その表現を参照して作成された生成物は、当該著作物を用いて作られたものといえるという見解です。
このほか、元の著作物がAIのパラメータ生成にどの程度寄与しているかを分析し、依拠性の要件を満たすか判断すべきという見解もあります
このように、AI生成物の著作権侵害の有無については諸説ある状況です。
AIによる学習そのものが著作権侵害となるか
著作権法の定める「非享受利用」
著作権法第30条の4で「著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。」と定められています。
この「非享受利用」に該当する場合は、著作権者の許諾なく著作物を利用できるということです。
そしてその例として、第2号で「情報解析」を挙げています。
この「情報解析」とは、「多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、映像その他の要素に係る情報を抽出し、比較分類その他の解析を行うこと」と定義されています。
この規定により、AIの学習行為を含む「情報解析のための利用」に関して、非常に広い範囲で権利者の許諾なく行うことが認められていることになります。
非享受利用の限界
著作権法第30条の4には、「必要と認められる限度において」「当該著作物の種類及び用途並びに利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」と条件が付けられています。
AIが画像や音楽を分析するためであれば、著作権法第30条の4の「情報解析の……用に供する場合」として、その「必要とみとめられる限度において」利用することが認められます。
では、AIによって分析させた後、著作物を一般公衆に視聴させるなど、当該著作物の表現を他人に享受させる予定である場合は非享受利用に該当するでしょうか?
この場合は、情報解析にとどまらず、その他人の知的、精神的要求を満たすための利用に向けられたものと評価できるため、著作権法第30条の4は適用されません。
著作権法第47条の5などの他の権利制限規定の適用などを受けない限り、著作権者の許諾が必要となるでしょう。
したがって、例えば、ある著名な漫画やアニメーションに似た画像を一般公衆に視聴させるために、当該著名な著作物をAIに読み込ませて学習させる場合は、著作権法第30条の4は適用されず、著作権法の他の権利制限規定の適用もされない場合、著作権侵害となる可能性があります。
AI生成物の利用が著作権侵害とならないケース
著作権法第47条の5(電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等)
著作権法第47条の5では、電子計算機を用いて、新たな知見や情報を創出する所在検索や情報解析等の情報処理を行い、その結果を提供する者は、その行為の目的上必要と認められる限度において、当該行為に付随して、著作物を軽微な範囲で提供する行為をすることができるとされています(同条第1項)。
また、当該行為の準備を行う者は、軽微利用の準備のために必要な限度で、複製・公衆送信(自動公衆送信の場合には送信化を含む)を行い、又はその複製物による頒布を行うことができるとされています(同条第2項)。
したがって、AI生成物を提供する者は、提供の目的上必要な限度において、提供に付随して軽微な範囲で、公衆への提供又は提示が行われた著作物を提供することができます。
また、AI生成物の提供に付随する軽微利用等のために準備を行う者は、公衆への提供又は提示が行われた著作物について、準備のために必要と認められる限度で、複製・公衆送信・頒布を行うことができます。
これによって、AIによる生成物を他人に提供する場面において、AI生成物に他人の著作物が含まれている場合には、著作権法第47条の5によって適法になる場合があります。
また、AI生成物を生成する場面においても、他人の著作物を利用する場合に、著作権法第47条の5によって適法になる場合があります。
個人的な利用(私的使用のための複製)
AI生成物が他人の著作物に該当する場合、一般個人による利用が「私的使用のための複製」(著作権法第30条)の要件を満たす場合には、著作権者の許諾が無くても複製(ストレージなどに保存)することが許されます。
ただし、他人の著作物であるAI生成物(画像等)をTwitterやInstagramにアップロードするような行為は、私的使用のための複製の範囲外であり、公衆送信権の侵害となり得ます(著作権法23条1項)。
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AIで生成した画像を「人が描いた」と偽ったらどうなる?
「実在した個人の作家の未発表作品が見つかった」と偽った場合
たとえば、AIによって生成した画像を「これは画家の〇〇氏の未発表作品だ」と偽った場合にはどうなるのでしょうか?
著作者ではない者の氏名を著作者名として表示し、頒布した場合、著作者名詐称罪(著作権法第121条)という刑事罰が科されます。
1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、又はこれの併科となります。
私文書偽造罪の成立も考えられますし、販売した場合には詐欺罪の成立もあり得ます。
なお、著作者名詐称罪は、当該作品をネットで公開しただけでは成立しません。
公開と併せて「著作者でない者の実名又は周知の変名を著作者名として表示」した場合に、著作者名詐称罪が成立します。
また、未発表作品が見つかったとSNSに投稿しただけでは著作者名詐称罪は成立しません。
僭称コンテンツ問題
AIによる生成物に著作権が認められないことから、実際にはAIが生成したにもかかわらず、その生成物を「自分(人間)が作ったものだ」と嘘をつく人が出てくるのではないか、という問題があります(僭称コンテンツ問題)。
この問題について、AI生成物を人間が創作した著作物と偽って公衆に提供又は提示した者にも刑事罰が科されるように、著作者名詐称罪を改めようという見解もあります。
僭称コンテンツ問題に関連して
将来、AIが作った作品を「これは自分が作った著作物だ」と主張し、当該生成物に似た他人の作品が当該生成物の著作権を侵害するとして訴訟をする人が出てくるかもしれません。
AIによって大量の画像を生成することができるようになった結果生じた弊害といえるかもしれません。
もっとも、そのときは、訴える側が、自分が著作権を持つ著作物であるということを証明しないといけないでしょう(なお、著作権法第14条の問題は残ります)。
そうすると、このような訴訟にも一定のハードルがあるといえます。
AI生成物に特別な保護を認めるか
AI生成物に関して著作権が認められない場合に、特別な制度を認めて、AI生成物に係る権利利益を保護するべきかどうかに関して、「AIの法律」(西村あさひ法律事務所 福岡真之介弁護士編著)132頁以下に、このような指摘があります。
「もし、AI生成物が著作物に該当しないようなことになれば、それは誰もが自由に流通利用して良いことを意味し、AI生成物を作ろうという投資へのインセンティブを削ぐことになる。
他方で、AI生成物が著作物に該当するということになれば、休むことを知らないAIが膨大な著作物を生成し、それらに排他権が与えられることになる。著作権は相対的な排他権であることから、人間がAI著作物に依拠せずに独自に作品を作る場合には著作権侵害にならないものの、世の中にAI著作物があふれた場合に、それらにアクセスしてしまうことや、著作権侵害を恐れて創作活動に委縮効果が生じることも考えられる。また、AI生成物が保護されなくても、学習済みモデル等、AI開発の過程で生じた知的成果が保護される限り、AI開発のための投資が十分に行われ、投資へのインセンティブが削がれることは無いとの反論もある。今後AIによる生成物が増加するであろうことを踏まえると、現行法上の枠組みを将来も維持すべきかについては検討の余地があろう。
立法論としては、AI生成物に①英国法のようにコンピュータ生成物として著作権保護を与える方法、②特別の権利(Sui Generis)を付与する方法、③自他識別力を有するなど一定の価値を有するAI生成物のみを保護する新たな制度を設ける方法などが挙げられている。この点について、AI生成物の保護価値は、生成に要する投資にあるから、AI生成物を一般的に保護するのであれば、著作隣接権等の投資保護を直接の目的とした法制度によることが望ましいとする見解も示されている。」
まとめ
以上のように、AIを利用した結果得られる生成物について、著作権が発生するかどうか、また、AIないしAI生成物を利用するにあたって著作権侵害となるかどうかについて、曖昧な部分が多いといえます。
日本における法整備の動向や、世界的な取り組みの推移に注意してきたいところです。
参考文献
- ※1 AIと社会と法 パラダイムシフトは起きるか?(宍戸常寿ら編著)
- ※2 AIの法律(西村あさひ法律事務所 福岡真之介編著)
- ※3 先読み!IT×ビジネス講座 画像生成AI(水野祐ら著)