コラム
公開 2022.01.25 更新 2024.08.07

通常のネット誹謗中傷とは何が違う?VTuber特有の問題点とは

通常のネット誹謗中傷とは何が違う?VTuber特有の問題点とは

バーチャルユーチューバー(VTuber)は、平成28年頃から、技術の発達、機器等の準備に要するコストの低下、所属事務所等サポート体制の充実を背景として、急激に世の中に広まり、現在では最も注目される存在の1つといえます。

本コラムでは、VTuberがインターネット上で権利侵害をされた際の対応方法や、VTuberであることに起因する問題点等について解説します。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(千葉県弁護士会)
早稲田大学法学部卒業。早稲田大学大学院法務研究科修了。企業法務を中心に活動。ベンチャー企業から上場企業まで幅広く支援。エンタメ業界、バイオ・繊維業界、ファッション業界、インターネット権利侵害問題に注力、豊富な実績を有する。離婚・相続問題、刑事事件、交通事故被害などの一般民事案件の実績も多数。
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誹謗中傷とは

近時、「インターネット上の誹謗中傷」という言葉が多く聞かれるようになりました。
「誹謗中傷」とは、根拠のない悪口を言って相手を傷つけることを意味します。
しかし、誹謗中傷に該当するかどうかは、法律的には「悪口かどうか」ではなく、「相手の名誉権や名誉感情を侵害しているといえるかどうか」という基準で判断されます。

また、自身が意図しない形でインターネット上に個人情報等を公開されてしまったり、自身のコンピューターグラフィックのキャラクターを無断で使用されたりと、誹謗中傷のほかにも権利が侵害される事例は多くあります。
ですので、VTuberが直面し得る問題という意味では、世の中に広く浸透している「インターネット上の誹謗中傷」という表現よりも、広く「インターネット上の権利侵害」という方がより正確かもしれません。

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権利侵害を受けた場合にとり得る手段

それでは、インターネット上で権利侵害をされてしまった場合、どのような手段を取り得るでしょうか。

まず、権利侵害となるSNSや掲示板上の投稿の削除の請求を行うことが考えられます。
削除の請求をする相手方としては、基本的にはSNSや掲示板の運営者やサーバーの管理者になりますが、場合によっては実際に投稿した者に削除を求めるというケースもあります。

次に、投稿した者を特定したいという意向がある場合には、いわゆる「発信者情報開示請求」の手続きを行う必要があります。
発信者情報開示請求の手続きを大まかに説明すると、SNSや掲示板の運営者やサーバーの管理者に対して、当該投稿に関するIPアドレスやタイムスタンプ等の開示を求め、開示されたIPアドレスをもとに特定した回線提供事業者に対して契約者情報(投稿した者の情報)の開示を求める、という流れになります。

また、名誉権侵害等については、刑法犯が成立する場合もあるため、最寄りの警察署に被害の相談にいき、被害届等を提出するという方法もあります。

なお、権利侵害となる投稿をした者を発信者情報開示請求によって特定できた場合、その投稿者に対して損害賠償の請求等を行うということも可能です。

以上のとおり、インターネット上で権利侵害をされた場合、いくつかの取り得る手段があるため、ご自身のご意向にあわせて、適宜弁護士等の専門家に相談のうえ、対応を検討することになります。

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VTuber特有の問題

さて、ここまでは、いわゆるインターネット上の権利侵害について広く一般的なお話をしてきました。
ここからは、VTuberに対してインターネット上の権利侵害がなされた場合、どのような問題があるのかという点について解説します。
VTuberに対するインターネット上の権利侵害における問題点が特に顕在化しやすいのが、いわゆる名誉権侵害(名誉棄損)のケースです。

名誉権侵害は、そもそも、第三者からみて誰に対してなされたものなのかということが明らかになっていなければなりません。
しかし、VTuberは自身の素性を明らかにせずに活動している場合が多いです。
そのような場合、仮に名誉権侵害となり得る内容の投稿がなされたとしても、誰に対してなされたものなのかということが明らかでないため、名誉権侵害は成立しないということになります。
「投稿・配信に利用しているコンピューターグラフィックのキャラクターに対する名誉権侵害は成立しないのか?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、残念ながら、少なくとも現状はキャラクターに対する名誉権侵害が成立するとの考え方は採用されていません。

それではVTuberに対する名誉権侵害について、法的に何らかの対処を行うことは可能なのでしょうか。

まず、仮にインターネット上で自身がVTuberであることを示唆している場合や、インターネット上の掲示板等で別途これを示唆するような投稿がなされている(VTuberにおいてはプライバシー情報やいわゆる「前世」についての投稿がインターネット上になされることもあります。)等、VTuberと自身との関連性を明らかにできる場合には、その点を主張することになります。
なお、このプライバシー情報や「前世」についての投稿が権利侵害である場合もありますが、この点については、本コラムでは論じません。

それがない場合、VTuberとしての名称を通して自身に対する名誉権侵害が成立するとかVTuberとしての名称に対する名誉権侵害行為は自身に対する名誉権侵害行為と同義であるといった主張をすることになります。

実際に、インターネット上でペンネームのみ公開している者に対する、インターネット上での名誉権侵害が認められた裁判例もあります。
VTuberにおいても、一定期間広義の社会活動を継続していれば、インターネット外でVTuberの名称で活動していなかったとしても、名誉権侵害の成立が認められる余地がないわけではありません。

もっとも、必ずしもコンピューターグラフィックのキャラクターは別人格であると理解不可能なものでなくで、そのようなキャラクターを利用しているという点で、VTuberと先のペンネームの裁判例では事情が若干異なります。
また、VTuberという存在それ自体が比較的新しいもので(少なくとも裁判官の中にはそのように捉えている方もいらっしゃるものと思われます。)、裁判例の積み重ねも十分でないため、具体的な個別事情や各担当裁判官の判断によるところが大きいという点に留意が必要です。
加えて、VTuberの活動が具体的にどのようなものなのかということを丁寧に主張(説明)することも極めて重要です。
その他、名誉権侵害ではなく名誉感情侵害を主張することも1つの手段になります。

まとめ

以上のとおり、VTuberのインターネット上の権利侵害においては、いわゆる一般の方とは異なり、VTuber特有の問題が生じます。
専門的かつ高度な法的主張を展開する必要がある場合も多いため、早期に専門家である弁護士に相談することをおすすめいたします。

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