コラム

公開 2022.04.12 更新 2023.01.30

従業員に未払い残業代を請求されたら?対処法と弁護士に相談すべき理由を解説!

従業員に未払い残業代を請求されたら?対処法と弁護士に相談すべき理由を解説!

従業員から未払い残業代を請求された場合、企業側としてはどのように対応すれば良いのでしょうか?未払い残業代請求への対応方法から、未払い残業代対応についての弁護士と社労士の違いなどについてわかりやすく解説します。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。元裁判官。企業法務、M&A、労働法、事業承継、倒産法(事業再生含む)等、企業に係わる幅広い分野を中心とした法律問題に取り組む。弁護士としてだけでなく、裁判官としてこれまで携わった数多くの案件実績や、中小企業のみならず、大企業や公的企業からの依頼を受けた経験と実績を活かし、企業組織の課題を解決する多面的かつ実践的なアドバイスを提供している。
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残業代の未払いが企業にもたらすリスク

残業代は従業員が残業した時間に応じて企業が支払うべき労務の対価であり、労働基準法に定められております。

しかし、中には残業代を適正に支払っていない企業も存在します。残業代の未払いが生じている場合、企業にはどのようなリスクが生じるのでしょうか?

従業員のモチベーションが低下する

残業代の未払いが生じた場合には、従業員のモチベーションが低下するおそれがあります。

勤労から得られるものはお金のみではない場合もあるとはいえ、給与や残業代の支払いは企業と従業員との信頼のベースとなるものです。企業のために残業をしても適正な残業代が支払われなければ、その企業のために努力をするモチベーションを保つことは従業員にとって難しいでしょう。

また、企業の将来性に不安を感じ、退職者が増える可能性も否定できません。

未払い分の残業代を請求される

適正な残業代の支払いを受けることは、従業員としての正当な権利です。そのため未払いを続けていれば、ある日突然従業員や退職した元従業員から未払い分の残業代を請求される可能性があります。

残業代の時効は法律が改正され、2020年3月31日までに支払期日が到来するものについては2年でしたが、2020年4月1日以降に支払期日が到来するものについては3年へと伸長され、さらに将来的には5年となります。

時効期間をいきなり5年とすると企業への負担が大きくなりすぎるため、経過措置として3年とし、段階を踏んで伸長することになっております。この期間分をまとめて請求されることとなれば、無視することができない規模の出費となることでしょう。

また、企業による未払が悪質な場合等は、裁判所の判断で残業代に加えて付加金の支払が命じられる場合があります。この付加金は支払うべき残業代と同一の金額までの支払を命じることができるとされておりますので、最大2倍の金額を支払わなければならなくなる可能性があります。

他の従業員からも請求されて資金繰りが悪化する

残業代の未払いが常態化していれば、従業員同士が相談をして複数人から一度に未払い残業代を請求される可能性があります。

まとまった額を複数人から一度に請求されれば、非常に多額の支払いが必要となるでしょう。未払い残業代の支払いが理由では金融機関も融資をしてくれない可能性があり、経営の根幹を揺るがす事態となるおそれがあります。

IPOの障壁となる

IPOとは株式を市場に公開(上場)することです。IPOする際にはさまざまな視点から企業の中身が精査されることとなります。

残業代の未払いがあるままではIPOが認められないことも多く、IPOの前に精算が必要となる可能性が高いでしょう。

悪質な場合には刑事罰が適用される

残業代の未払いは労働基準法の規定により刑事罰の対象となる場合があります。罰則は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金とされています。

残業代の未払いが発生する4つのパターン

残業代の未払いが発生してしまうケースは数多く存在しますが、代表的なものは次のとおりです。

中には企業が法令の解釈を誤っていることから未払い残業代が生じている場合もあるため、現在の制度が違法状態でないか心配な場合には、一度労務問題へ詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。

固定残業代や年俸制を理由に残業代を支払っていない

固定残業代や、固定残業代を付加した年俸制を導入しているからといって、残業代を一切支払わなくて良いということではありません。※1

固定残業代とは、あくまでもある一定の残業時間までの残業代を固定で支払う制度であり、あらかじめ合意した一定時間を超える部分の残業分まで残業代の支払いが免除されるわけではないためです。

合意した時間以上の残業が発生した場合には、その超過時間分については残業代を支払う必要があります。

管理職であることを理由に残業代を支払っていない

役職上、管理職の肩書を持っているからといって、一律に残業代が不要であるわけではありません。※2

この点、自分の勤務時間に裁量があり、経営にも参画するなど実質的に労務管理に関する指揮命令権限が認められ、賃金面でも管理職にふさわしい待遇が与えられていることという要件を満たせば、労働基準法上の管理監督者として、残業代の不支給が認められる可能性が高いといえます。

しかし、残業代が不要な管理職と認められるためのハードルは意外と高く、管理職といえるほどの裁量権がなかったことなどを理由に残業代の支払いが必要とされた判例は少なくありません。

たとえば、ファミリーレストランの店長や、学習塾の営業課長などには、残業代の支払いが必要とされています。管理職かどうかは役職名のみで一律に判断をされるわけではありませんので、誤解のないよう注意してください。

表面的に残業禁止ルールを設けて残業代を支払っていない

社内に残業禁止のルールを設けていることを理由に、残業代を支払っていない企業も存在します。

しかし、いくら残業禁止のルールを設けていたとしても、残業をしなければ間に合わないほどの業務を与えられていたり、残業禁止ルールが形骸化してしまっていたりすれば、残業代の支払いは必要です。

残業禁止のルールさえ設けておけば、実際に残業をさせても残業代の支払が不要ということではありません。

持ち帰り残業分の残業代を支払っていない

会社に残っての残業が禁止されているなどの理由から、仕事を家に持ち帰って実質的に残業をしているケースが存在します。

従業員が自己判断で持ち帰り残業をした場合には残業代が発生しない場合もありますが、上司から持ち帰り残業を命じられていた場合や持ち帰り残業が常態化するなど黙認されている場合などには、残業代の支払いが必要となる可能性が高いでしょう。

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未払い残業代を請求されたら企業側はどう対応すべき?

未払い残業代を請求された場合、企業が対応を誤れば、他の従業員を巻き込むなどより大きなトラブルに発展してしまう可能性があります。未払い残業代を請求されたら、次のように慎重に対応しましょう。

誠意をもって対応する

未払い残業代を請求された場合には、誠意をもって対応しましょう。企業側が、残業代を請求した従業員を解雇したり、頑なに未払い残業代の支払いを拒否したりすれば、より大きな問題へと発展する可能性があります。

ただし、その場で、従業員の言い値で支払いを約束してしまうことは得策ではありません。まずは、詳細を確認してから、具体的な対応を決めるようにしましょう。

未払い残業代を計算する

従業員の言い分も大切ですが、企業側でも未払い残業代をきちんと計算します。従業員が勘違いなどから過大な残業代を請求している可能性もあるためです。

また、正確な金額を確認しておくことで、企業側の交渉内容を検討することが可能となります。そのためには、日ごろから、従業員の正確な勤務時間を客観的に把握し、証拠として残せる仕組みが重要です。

専門家に相談をする

従業員へ最終的な対応を提案する前に、弁護士などの専門家へ相談してください。弁護士であれば、訴訟を含め、この先の従業員の出方に応じたさまざまなアドバイスをすることが可能です。
状況によっては、従業員との交渉の際に、弁護士に同席してもらうと良いでしょう。

未払い残業代が生じない仕組みを構築する

未払い残業代の請求は、残業代が未払いになる仕組みが残っている以上、いつまた発生するかわかりません。そのため、できるだけ早期に今後未払い残業代が生じない適法な仕組みを構築しておきましょう。

未払い残業代の相談はどの専門家にすべき?

未払い残業代の相談をしようとする際、社会保険労務士(社労士)か弁護士のいずれに相談すべきかと迷ってしまう場合もあるでしょう。ここでは、未払い残業代への対応でできることという観点から、両者の違いを解説します。

未払い残業代対応で社会保険労務士(社労士)ができること

未払い残業代への対応で社労士ができることは、主に次のとおりです。

  • 未払い残業代の計算:発生している未払い残業代がいくらであるのか計算してもらえる
  • 仕組みの構築:未払い残業代が生じないための規定の策定などを依頼できる
  • あっせんの代理:特定社労士(特別研修を経て、紛争手続代理業務試験に合格し、かつその旨が社労士連合会の登録に付記された社労士)に限り、円満な解決に向けた紛争調整委員会での話し合い等法律に定められた手続き及びその手続きについての相談、和解交渉、合意締結についてのみ、例外的に代理人となることができる

未払い残業代対応で弁護士ができること

未払い残業代の対応を弁護士へ依頼した場合には、この対応は、まさに法律事務ですので、弁護士ができることに基本的に制限はなく、交渉や、訴訟の代理人となることも可能です。

また、内容証明郵便の送付や、従業員との面談においても、万が一訴訟へ発展した場合を踏まえた対応を行います。

まとめ

未払い残業代がある企業にとって、未払い残業代の請求はいつ発生してもおかしくありません。特にIPOを目指している企業にとって、未払い残業代は大きなリスクとなるでしょう。

そこで、Authenseでは、「労務に特化したIPO準備プラン」を提供しております。このプランではグループ内の社労士と連携し、労務デューデリジェンスに耐えうる体制づくりをワンストップでサポートします。また、企業の現状を調査し、問題点の洗い出し、その解決に向けた従業員との話し合い等、IPO審査で問題となり得る事項を審査前に解決するお手伝いもしております。
IPOに向けて労務体制を整えたい企業様は、ぜひIPO支援の経験豊富なAuthenseまでご相談ください。

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