コラム

公開 2023.08.15 更新 2023.10.23

徒手空拳から百獣の王を目指す男。を生み出した戦略的アプローチ
百獣の王 武井 壮氏 インタビュー(中編)

武井 壮 氏インタビュー中編

あらゆる動物を自分の肉体だけを武器に倒せると豪語する「百獣の王」キャラで、芸能界で独自のポジションを確立する武井壮氏。アスリート出身のタレントは数え切れないほど存在する中、一線を画したタレント像を表現し続けている。
「百獣の王」キャラを作り出すため、武井氏は30代のすべてを費やした。ブレイクするまで、徹底した市場分析と商品開発(ネタ作り)に明け暮れ、ついにデビューの日を迎える。その舞台裏に迫る。

材・文/山口和史 Kazushi Yamaguchi 写真/斎藤大嗣 Daishi Saito

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30代のすべてを費やした時間が後の大ブレイクを生んだ

- 21歳の大学3年生の頃、将来は芸能界で活動しようと決めた。その日のことを武井氏は鮮明に覚えている。

武井氏:中学を卒業してすぐに兄は俳優を目指して活動を始めました。ある俳優さんのカバン持ちから始めて8年後、やっとテレビドラマや舞台に出られるようになりました。しかしその矢先、ようやく夢の最初のステップに立った時期にガンになり、1年足らずで亡くなってしまったんです。

- 亡くなる直前、もう体力も衰え自力で立つことも叶わなくなった兄を車椅子に乗せ、ふたりで新宿の映画館で観た「メジャーリーグ2」が、兄弟での最後の楽しい思い出となった。

武井氏:『早く病気を治してこういう作品に出たいな』と兄は話すんですけど、僕はガンが末期だと知っていたので、言葉が出なくて。僕はその言葉を聞きながら、兄が死んだら30歳までは将来必要だと思われるスポーツの能力をたくさん身につけて、30歳からは兄の遺志を継いで芸能界でチャレンジしようと決めたんです。

- 武井氏は学生時代、陸上の十種競技で日本選手権優勝をはじめ、多くのタイトルを獲得したチャンピオンとして知られた生粋のアスリートだった。小学生のころから体育大学の教科書を読み込み自ら編み出した独自のトレーニング方法も評判を集め、大学卒業後は各方面から講師・トレーナーのオファーが殺到した。

30歳を迎えた武井氏は自身の身体能力とスポーツにまつわる知識を武器に、芸能界での活動に向けて具体的に動き出す。30代の彼が行ったのは、市場調査と商品開発、そして地道なゴールの見えない営業活動だった。

楽しい、面白いを売りにする商品を開発すれば、売る場所はたくさんある

武井 壮 氏
武井氏:芸能界で受け入れてもらうためには、まずは話が面白くなければならないと考えました。そこで、30代のころは家を借りずに芸人さんたちと毎日ご飯を食べたり、夜はずっと彼らとおしゃべりをして、どのようにして彼らはトークを構成しているのか勉強すると決めました。

- 彼らが仲間内で話している会話を録音し、ドッと場が盛り上がった箇所を繰り返し聞く。面白いとはなにか、どうすれば人を楽しませることができるのか研究した。

武井氏:芸人さんの野球チームに入れてもらってスポーツを通してお笑いをやるとはどういうことなのかも見せてもらいました。これは一番勉強になりました。

- そのチームのルールは、相手チームを絶対に野次らないこと。味方の選手を野次って相手を笑わせることが求められた。

武井氏:そうか、自分が持っている身体能力をダシに笑ってもらえるようになればいいんだと。これはもしかしたら大きな鍵になるかもしれないと思いました。

- この気付きが後に、武井氏が広く社会に受け入れられるようになる「百獣の王キャラ」へと結実していく。市場調査も入念に行った。

武井氏:真面目にスポーツを見せる番組もあるにはあるけど多くはない。一方で、楽しいおしゃべりをしたりバラエティを見せる番組は山ほどあるんです。

ならば、身体能力しか売りにしていなかったら、その手の『すごい』を見せる番組にしか呼ばれない。楽しい、面白いを売りにする商品を開発すれば、売る場所はたくさんあると考えました。

- 30代はあっという間に過ぎていった。仕事をするのは月に5日だけと決めていた。プロスポーツ選手のインストラクターなどで当面の生活費を稼ぎ、夜は西麻布で芸人たちと過ごす。

仕事もせず、家もない武井氏を見て、かつての後輩たちからは「もう終わったな」「昔はすごかったのに」と後ろ指をさされた。それでも武井氏は自らの未来を疑ってはいなかった。

武井氏:将来、芸能界で成功する。そのために今どんな準備をしているかなんて誰にも話していませんでしたから。実際にヤバいやつでしたしね(笑)。ヤバいやつだったからこそ、いろんな芸人さんが僕を面白がってくれたんです。芸人さんから俳優さん、ディレクターさんなどいろいろな人たちが僕を見つけてくれて、後に彼らが僕を番組に呼んでくれるようになるんです。

- 自分を売り出す方向性は見えた。番組に呼んでくれる人たちとの人脈はできた。あとは自分自身を売り出すための商品を開発するだけ。そこで生みだしたのがどんな猛獣でも自らの肉体を駆使して倒すことができると豪語する武井氏 : 百獣の王を目指す男。というキャラクターだった。30歳から試行錯誤を繰り返し、8年が経っていた。ようやく準備は整った。

<後編に続きます>

<前編はこちら>

Profile

武井 壮 氏

1973年5月6日東京生まれ。小学校時代からスポーツ理論を研究、独自のトレーニング理論を確立する。大学時代からは陸上に取り組み、短距離、十種競技の選手として活躍。日本チャンピオンとなる。将来の芸能界デビューを見据えて20代、30代を準備期間として過ごし、39歳で武井氏 : 百獣の王を目指す男。としてデビュー。テレビ、ラジオ、映画、CMなど多方面で活躍中。

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