コラム

公開 2023.10.31

【連載】ソフトバンクグループの「虎の子」Armがいま株式上場をする理由

ソフトバンクグループの「虎の子」Armがいま株式上場をする理由

ソフトバンクグループ子会社のArmは、米ナスダックへ株式公開の申請を行いました。同社の株式上場は、2023年最大のIPOとも噂されており、過去1年間低迷したIPO市場の大きな試金石となるでしょう。本記事では、Armのこれまでの歴史、なぜソフトバンクグループがこのタイミングでArmを上場させるのかについて解説します。

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Armとは

英国ケンブリッジに本社を置くArmは、99%の全てのスマートフォンに搭載されている半導体チップのアーキテクチャを設計しました。Armは半導体チップメーカー自体ではありません。他の企業が半導体チップを作るために使用する「アーキテクチャ」や全体的なデザイン、コンポーネント、プログラミング言語などを設計する企業です。

パーソナルコンピュータで一般的だったX86チップと比べて非常に低いエネルギー消費でチップを設計することが強みです。Apple製のものを含むほぼすべてのスマートフォンプロセッサ、そして増加しているサーバーやラップトップにも使用されている技術として「テクノロジーのスイス(中立国)」とされています。

現在は、ソフトバンクグループの子会社となっていますが、2022年度においては28億ドルもの売上を誇り、かつ年平均成長率14%(直近3年間の3ヶ月累積実績)と成長を続けています。

ARM売上高($M)

Arm IPOに至る経緯

ソフトバンクグループが2016年に320億ドルでArmを買収しました。これは当時、欧州の技術企業の最大の買収となりました。ソフトバンクは当時、成長しているIoTセクターで足掛かりを得るために事業を買収するためでした。

その後、2020年、NVIDIAはArmを約400億ドルで買収する意向を発表しました。この取引は、NVIDIAがAIとコンピューティングの領域でのリーダーシップをさらに強化するための一環として位置づけられました。Armの技術は、スマートフォンからデータセンターまでの広範なデバイスに採用されているため、この取引によりNVIDIAはこれらの市場へのアクセスを強化できると期待されました。

この買収は、特に中国、EU、イギリス、および米国の規制当局から厳しい審査を受けました。一部の規制当局は、この買収によりNVIDIAが市場を支配する可能性が高まるとの懸念を示しました。また、Armのクライアントやパートナーの中には、NVIDIAの所有下でARMの技術への公平なアクセスが制限されるのではないかと懸念する声も上がりました。上記の懸念や規制上のハードルを乗り越えるのが困難となり、NVIDIAとArmの親会社であるソフトバンクグループはArmの売却を断念しました。

今回、2023年8月にArmは公開株式の申請を行いました。想定される時価総額は600〜700億ドルとも噂されており、この通りの金額になれば、2016年にソフトバンクグループが買収した金額から約2倍になるだけではなく、為替レートも考えるとさらに1.5倍程度(つまり買収時の約3倍)にもなりうるIPOになるかもしれません。

なぜこのタイミングでIPOするのか?

ではソフトバンクグループは、なぜこのタイミングでArmをIPOすることにしたのでしょうか。考えられる原因は3つあります。

1つ目は、ソフトバンク・ビジョン・ファンド1の投資家(Limited Partner, LP)への投資リターンを示す必要がある可能性があるという点です。

ソフトバンク・ビジョン・ファンド1(SVF1)は、2017年に設立され、1,000億ドルという巨額の資金を調達したことで、日本だけではなく世界中で話題になりました。
2023年6月末時点で、この1,000億ドルファンドの累計投資成果(公正価値 + 売却額)は1,020億ドルとなっており、投資元本から価値を大きく増やすことができていません。

SVF1累計投資成果(2023年6月末時点)($B)

今回、SVF1が保有するArmの25%分の株式を、ソフトバンクグループが買い取るという報道がなされました。この買収の際、Armの時価総額を640億ドルと評価したとのことなので、この取引だけでSVF1には大きなキャピタルゲインがもたらされたことになります。

2つ目は、人工知能(Artificial Intelligence, AI)銘柄の企業価値が現在非常に高いと考えている点です。

NVIDIA株価推移

グラフは、Armの買収に名乗りを上げたNVIDIAの株価です。買収交渉が行われていた2020年からの株価の推移を見ると、株価が7倍以上に上昇しています。
 同じくAI銘柄であるArmも、NVIDIAの株価を見る限り、株式市場から高い評価を受ける可能性があると考えているのではないでしょうか。

3つ目は、今後、他のAI企業(スタートアップ)への投資を再加速するための資金を確保したいという点です。

2023年8月に発表されたソフトバンクグループの決算資料には、過去数年間、自粛していた投資を再開する旨が強調されています。現在、同社は5.8兆円の手元流動性がありますが、これから大きくAI企業への投資を加速させるために、保有するArmの株式を徐々に現金化していきたいと考えるのは自然なことだとも言えます。

本記事が公開される頃にはArmのIPOが完了しているかもしれません。(本記事は2023年8月に執筆)Armが株式市場からどのような評価を受けるのか、注目してみたいと思います。

Profile

シバタ ナオキ 氏

元・楽天株式会社執行役員、東京大学工学系研究科助教、スタンフォード大学客員研究員。東京大学工学系研究科博士課程修了(工学博士、技術経営学専攻)。スタートアップを経営する傍ら「決算が読めるようになるノート」を連載中。

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